アディクトシリーズに明日はあるのか vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

アディクトシリーズに明日はあるのか vol.2

オピニオン インプレ
アディクトシリーズに明日はあるのか vol.2
  • アディクトシリーズに明日はあるのか vol.2
計算された動きしか見せないフレーム
どんなトルク、どんな路面でも平然と走り抜ける
今までのフレームが大きなトルクに対して意図しないたわみを見せ、もっさりした挙動を隠せずにいるようなシーンでも、アディクトのフレームは計算された動きしかせず、平然と走り抜けて見せる。どの速度域でも引き出る性能の質が同じ。公表されているカーボン素材のグレードは30tである。それでここまで硬く軽いフレームが出来るのだから、トン数でフレーム性能は全く類推できないと再認識させられる。売る方も分かっているらしく、カタログには 「スコットが求めるカーボンフレームは、単に硬いフレームではありません。しなやかさ、軽さ、剛性の3つの要素がたえず相互的に作用するといった考えのもとに、それぞれの条件に対応するカーボン技術を開発しています」 とある。「しなりのプロセス」 を最適化し始めたカーボンフレームがミドルクラスまで降りてきたとも言えるだろう。
「暗く深い苦悩」とは無縁の明るさ
表面 (ペダリングにおける踏み込みの初期プロセス) に微小なしなやかさを設けて走らせ易さを演出しつつ、フレームの芯はガッチリと作り動力伝達性に重きを置く、というフレーム設計は、近代ピナレロのレーシングレンジ (ドグマ、パリカーボンなど) や最新のスペシャライズドなどにも見られる手法である。ウィップで進ませるタイムやルックやGDRや新生トレックなどとはコンセプトからして違う。
VXRSやGDR、前回のFRTP3などを走らせていると、時として設計者の 「暗く深い苦悩」 のようなものに囚われてしまうことがある。市場の要求と自分の理想との間に横たわるギャップに苦しみ、眉間に皺を寄せ、頭を抱えて悩みに悩み抜いているエンジニアの姿を見てしまう。そうした 「影」 を背負ったフレームを走らせていると、難産の末に産み出された 「しなりとしなり戻り」 を “ありがたく味あわせていただく” という気分にもなってしまう (そこが面白いのだが)。
対してアディクトR2は、あっけらかんと明るい。何にも思うことなく、スコーンと走ることができる (もちろん、これはメリットである)。後ろめたさを感じる必要がない。
イメージ02
ストイシズムに染められた完璧な道具
どんな用途にも不満なく使える万能フレーム
ただ、快適性については、特筆すべきものはない。振動吸収性・振動減衰性の両面で、ごく一般的なレベルにとどまっており、衝撃に対してはコツコツとした少しキツい突き上げを許すことがある。しかし、タイヤの選択で調整できる範囲のもので、振動減衰力に秀でたタイヤを使うことで改善は可能だ。
小さいサイズが充実しているのもスコットカーボンシリーズの美点。最小サイズであるXXSは水平換算トップ長で510mmという小ささで、スモールサイズフレームにありがちな、ジオメトリ・操縦安定性の破綻も見られない (試乗フレームはXSサイズでトップ長520mmだが、XXSサイズのCR-1:トップ505mmにも試乗経験あり)。リッチーの高性能パーツで固められているステムとハンドルのサイズは、フレームサイズに対して少々大きすぎると感じるが。
ただ、あらゆる素材とあらゆる乗り味を知り尽くした真のエンスージアストの食指を動かすには至らない、と思った。「ADDICT (中毒になる)」 というネーミングとは裏腹に、そこいらの脚自慢が少々頑張った程度では牙を剥くことがほとんどない。あまりに全体のバランスがよく、重心低く、粗野なところが全くなく、予想通りの反応しか示さない。これはもちろんレーシングロードフレームとしては大きなメリットとなるものだが、個性豊かな好敵手の中では、相対的に 「中途半端」 と評価されても仕方ないかとも思える。
だから、「ヒルクライムにもスプリントにもロングライドにも全く不満なく使える万能フレーム」 という、例の使い古されたお決まりのセンテンスしか出てこない。少なくとも、アディクトR2に限って言えば、インプレッション記事をドラマティックな大作に仕上げることは難しい。評者を最も困らせるフレームの一つであろう (ただ、これは主観的・感覚的な感想であるから、絶対的な評価とは成り得ない)。
道具としては完全に近い
個性の強いフレームは、それゆえに人を拒否することがある。585がその切れ味で、VXRSやGDRやFRTP3がそのしなやかさで、ピナレロレーシングラインはその硬さで、というように。アディクトR2は人を選ばない。ドライと表現することもできるかもしれない。
ビギナーが乗れば 「走らせやすい」 と感じるだろうし、玄人が乗っても 「よくここまで走るフレームに仕上げた!」 と思うだろう。「しぶとい老兵」 ではなく、まだまだ現代的な性能を有しているのである。道具としては完全に近い。が、趣味の対象物としては、そんな 「死角のなさ」 が死角になっている、と言えなくもない。剛性重視・軽さ重視・絶対性能重視・費用対効果重視という評価基準が幅を利かせているこの時代のマーケットに見事にマッチしたとも言えるだろう。
アディクトRCや2012シーズンに向けて熟成・待機中であるF01がどれほどの個性を有しているのかは知らないが、少なくともアディクトR2は、その派手な外見やネーミングに反して、その中身をプラグマティズムが貫いている。これは、芯までストイシズムに染められた硬派なマシンなのである。
イメージ03
《》

編集部おすすめの記事

page top