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【THE REAL】浦和レッズ・柏木陽介が際立たせる華麗さと泥臭さ…「走るファンタジスタ」の現在位置

オピニオン コラム
柏木陽介
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今年に入って、支えてくれる人が増えた。それも、もっとも身近な存在として。3月3日に入籍したTBSアナウンサーの佐藤渚さんから、ベルマーレ戦を目前にして“あること”を頼まれた。

「300試合だからと、珍しく試合を見にいきたいと嫁が言ってきたので、一番前のチケットをプレゼントしたけど。やっぱり300で50を取れたら一番カッコええなあとは正直、思っていた」

キックオフ前の時点で、柏木はJ1通算49得点をあげていた。節目となるゴールに王手をかけてから3試合目。4‐1と大量3点のリードで迎えた後半終了間際に、ビッグチャンスが訪れる。

カウンターからDF槙野智章が中央をドリブルで駆け上がっていく。その左後方をトップスピードでフォローしていたのは、後半途中からシャドーへポジションを一列上げていた柏木だった。

果たして、槙野は柏木へのスルーパスを選択する。歯を食いしばりながら強めのパスに追いつき、角度のないところをから利き足の左足を振り抜いたが、強烈なシュートは左側のネットの外側にそれてしまった。

◆「正直、あのままよくやった」

試合後の取材エリア。ファーストステージ終盤から続く連続無敗記録を「9」に伸ばした余韻が残るなかで、このときだけは“我”を優先させたと、柏木は苦笑いしながら打ち明ける。

「折り返すことも考えたし、正直、そっちのほうが点も入ると思ったんやけど、シャドーの位置に入ったのに、シュートを1本も打てずに終わるのも悪いかなと思って。自分のなかでは、キーパーのイメージもできていた。ニアを消した分、ファーが空いていたので、ファーを狙ったんやけどね。

ただ、ああいう時間帯にマキ(槙野)が前へ攻め上がっていったときに、しっかりと後ろに回れるというのは、すべての選手ができるわけじゃないから。あれでオレにマークがついてきたら、別にオレを使うことなく、マキがシュートを打ってもいいわけやからね。

要は動き出しの部分で、みんなのために動くということ。自分のためだけじゃなくて、味方のために動くということがもうちょっとできたら、ウチのよさというものがもうちょっと出てくるのかなと思う」

実はこのとき、柏木は左足の激痛とも戦っていた。4‐1のまま試合終了を告げるホイッスルを聞き、ピッチ中央でのあいさつを終えた直後に、もう限界とばかりにスパイクを脱いで裸足になってしまった。

「めちゃ痛かった。砂が入り込んだのかなと思いながら、残り30分くらいやっていたんやけど。見たら左足の裏の皮がベロンとむけていた。火傷というか、おそらく試合中にちょっと空気が入って、水ぶくれみたいになったものがむけたのかなと」

レッズを率いるミハイロ・ペドロヴィッチ監督は、後半開始と同時にMF関根貴大に代わってMF梅崎司を投入。柏木をボランチからシャドーにあげた後半17分には、2枚同時に交代のカードを切っていた。

午後6時半のキックオフ時点で気温が30.6度、湿度は65%に達する消耗戦。不測のアクシデントが起こりかねない過酷な状況で、実際に柏木の左足には異変が生じ、時間の経過とともに悪化していった。

しかし、もう選手交代は許されない。痛みをこらえながら、それでもチャンスやピンチになると無意識のうちにスプリントを繰り返した柏木は「正直、あのままよくやったと思う」と自らをねぎらっている。



柏木陽介 参考画像


◆状況判断力とアイデア

「けっこうきついから、2人を同時に代えることはやめてほしいという話はハーフタイムにしたんだけどね。やっぱり2枚交代だったし、試合の流れ的にはそれが勝ちにつながったけど、今日の暑さを考えたら残り10分、15分で足がつる選手が出てもおかしくなかった。前半はスロースタートというか、暑くてホンマに動けなかった部分もあるから、悪いサッカーだった前半に2点を取れたことが大きかったと思う」

前半8分に先制しながら、追加点を奪えないまま迎えた同42分。ゴール前でこぼれ球を拾ったMF武藤雄樹が抜け目なく押し込んだ一撃は、柏木の走力と状況判断力、そしてアイデアに導かれたものだった。

自陣から仕掛けたカウンター。左タッチライン際でMF高木俊幸がボールをキープする間に、柏木はボランチの位置から左前方へ広がるスペースへ向けて、グングンと加速していった。

「トシ(高木)の位置は見えていたし、オレが前を走れば、トシからオレ(にパス)というのはあると思って走った。武藤がすごくいい走りをしていたけど、相手もちゃんとついてきたから、これはパスを出すのは難しいと。それで自分でちょっと仕掛けながらシュートにもっていくか、誰かがいい上がりをしてきたら、というのはしっかりと見ていた」

高木からの縦パスに追いついたとき、ニアサイドを目がけてフォローしてきた武藤の背後には、DF三竿雄斗が食らいついていた。ボールをキープして2人を引きつけながら、柏木は視野を広く保つ。

見つけたターゲットは、ゴール中央へ駆け上がってきたFW李忠成。柏木の左足から放たれた横パスは、必死に戻ってきたDF岡本拓也のスライディングに遮断されたが、こぼれ球が武藤の目の前に転がっていった。

終わってみれば、後半は左足に痛みを抱えながらも、柏木の総走行距離は阿部に次ぐチーム2位の10.784キロを記録している。すべてが至高のハーモニーを奏でているからか。2点目を解説する言葉も“熱”を帯びてくる。

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《藤江直人》

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