ほとんど学校が甲子園出場を最大の目標に掲げているだろうが、現実にはこの1年にやってきた成果として、最終目標としていた夏の地区大会でどこまで自分たちの思い通りのチームになっているか、どこまで自分たちが思い描いた試合ができたのか、それを問う戦いとなっていく。
その結果を求めて、負けたら終わりの一本勝負に挑んでいくのである。
■夏の本番に向けて最終調整
本番まであと2週間ほど。期末試験などの日程も重なり、学校によっては一番難しいタイミングで初戦を迎えることにもなりかねない。しかし、やり残した思いで臨みたくはない気持ちは強い。だから週末を中心として、可能な限り試合経験を積んでいくように工夫している。その試合をどのような形で、どう組んでいくかもまた、指導者たちの高校野球チーム作りの大事な要素だ。
日本で一番暑い都市としても注目される埼玉県熊谷市。かつて強豪校として甲子園出場を成し遂げた熊谷商には、熱い想いでチーム再建に挑んでいる監督がいる。この日は茨城県の水海道一を迎えて、最終調整に挑んでいた。
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熊谷商ナイン
前任校の八潮南では、何もない状態から好チームを作り上げた新井茂監督。
「野球というのはポジションの多い競技。ポジションごとにそれぞれ練習が異なってきます。だけど最初のランニングとグラウンド整備だけは、全員一緒に同じことができるんです」とグラウンド整備で部員の心をひとつにしていくことに徹してきた。母校・熊谷商に異動して4年目、監督就任3年目の今もその想いは変わっていない。
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気持ちを込めてグラウンド整備
監督として初めて迎え入れたのが今の3年生だ。かつて熊谷商工時代も含めて春1回、夏5回の甲子園出場実績があり、1970年夏は平安と13-12、1981年夏には下関商と12-11という激闘を演じた歴史もある。そんな「強い熊商」を何とか復活させたい想いでもある。
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昨年夏からのメンバーとして唯一残った水野葵君。もとは外野手で打撃もいいが、この夏は投手としての期待が大きい。「上を見据えて勝ち上がっていくと、どうしても連投は避けられない。週末の試合では完投したら、次は5~6イニングと設定して投げさせています」と話す新井監督だが、前日行われた足利との試合で水野君は完投している。
今回は5イニングを前提として先発したが、5回途中で水海道一打線に捕まり同点となった。このあたりは課題となったかもしれない。この場面で熊谷商は左サイドの変則江原奎吾君を送り込んで、水野君は外野に下がった。
江原君はクセ球で苦しいところを逃れて、6~9回は被安打1本のみで役割を果たした。6回に熊谷商は二死走者なしから連続死球でチャンスを得ると、鈴木健介君の左越三塁打と水野君の中前タイムリーなどで3点を加えて再び突き放した。このリードを江原君が守った形となった。
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2試合目の熊谷商は、試合を作れる投手として期待の高い佐藤佑樹が先発。牽制で3度刺し、盗塁も刺すなど走者を出しながらも巧みにかわす。8回まで0点に抑え、9回は1年生の笠原君につなぎ、終わってみたら完封だった。こういう形での勝ちは大いに収穫といってもいいだろう。
「3年生が29人いますから、ベンチに入れない選手も出てきます。全員が役割分担を持って、その意識で納得してやっていけるようになりました」と新井監督はチームのまとまりに好感触を得ている。
約2時間かけて遠征してきた水海道一。3年生は20人いるが、2年生14人、1年生は10人とやや人数は少なくなっている。そんなこともあり1試合の中で、選手たちは複数のポジションをこなすケースも多い。2試合目では1番センターでスタメンだった山口君はショート→セカンド→センターと守備を変えていった。根本敦君もサード→セカンド→ショートと内野を守った。
就任13年目となる鈴木厚監督は、「試合の中でいろいろ試してみて、どこのポジションでどうなのかなと、どこでも守れるようにしておかないと。それ程、層の厚いチームでもありませんから」と苦笑する。
水海道一としては、エース格は1試合目先発の吉江君になるのだが、2回までで4失点とやや誤算という形になってしまった。こうなってしまうと何とかつないでいくのだが、3回からリリーフした小林和真君が6回につかまるまでは試合を作り直せた。3人目としては二塁手だった中島君がマウンドに立った。
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水海道一・吉江君
2試合目も最後は一塁から左腕の相馬君がマウンドに立った。相馬君は左のサイドハンド気味でボールの出所がわかりにくいこともあり、制球で乱れなければそれ程打たれないのではないかと思わせた。
水海道一は2回戦で、土浦三vs日立商の勝者と当るのが初戦となる。「見ての通り、投手はなかなか柱が決まりきっていない。苦しいのですがあまり時間はない。何とかしのいでいける投球ができればとは思っています」と鈴木監督は期待する。
地元では「海高(かいこう)」や「海一(かいいち)」などと呼ばれて親しまれている人気校だ。この日のセカンドユニフォームも「Kaiko」と書かれていたが、これは同校の応援歌で「海高」と謳われているところから来ている。そんな伝統を背負っている水海道一でもある。