求められるのはサイドチェンジや相手の最終ラインの裏を狙った縦パス。実戦を重ねるなかで群を抜く精度を見せてきたからこそ、ロングパスの担い手はいまではおのずと遠藤に託される。
例えば、FW興梠慎三の強烈なシュートがフロンターレの韓国代表GKチョン・ソンリョンに防がれた後半5分の場面。自陣における攻防から一瞬の隙を突き、敵陣へ乾坤一擲の縦パスを送ったのは遠藤だった。
「ワンタッチや裏へのパスも意識していまし、何回かチャンスにもなりましたけど、もっとビルドアップの起点になればベストだった」
物足りなさを口にする遠藤のプレーを、その背後でゴールマウスを守る日本代表の西川周作は「さすがオリンピック代表のキャプテンですね」と声を弾ませる。
「(縦パスは)本当に正確。非常に助かりますよね。能力が高いし、とにかく賢い。守りでも相手との間合いの詰め方、1対1のもっていき方で自分を助けてくれる。攻守において安定感をもたらしていますよね」
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ACLで広州恒大と対決
遠藤にとっては初体験となるACLでも、王者・広州恒大(中国)と敵地で引き分けたグループリーグ第3戦から3バックの真ん中に君臨。8シーズンぶりとなる決勝トーナメント進出へ貢献している。
特に20日には敵地でシドニーFCとスコアレスドローを演じている。長距離移動と中3日の強行日程にも、いまが伸び盛りの若武者は「3バックの右よりは運動量が少ないので」と意に介さない。
思い出されるのは昨年8月。ハリルジャパンの一員として、全3試合にフル出場した東アジアカップが開催された韓国から帰国した遠藤を、曹監督は中2日の清水エスパルス戦で先発フル出場させている。
このときは多くの代表選手が、蓄積疲労を考慮されてリーグ戦のメンバーから外れている。強行出場させた理由を問われた曹監督は、「帰ってきたときの顔を見て、というのかな」とこう続けている。
「若干22歳の選手が、A代表のプレッシャーのなかで3試合を戦った。だからこそ『ここが伸びどきだ』と思ったんですね。ワタルの精神的な充実度、代表に行って『湘南でやってきたことが間違っていなかった』とわかった気持ちを、ピッチに落としてもらいたかった」
代表戦がACLに変わっても、遠藤の心技体が置かれた状況は変わらない。ベルマーレでの6年間で築かれた、守備のオールラウンダーとしてのベースとタフネスさ。それらのレベルが、経験豊富なレッズの選手たちと同じ時間を共有することを触媒として、現在進行形で飛躍的にアップしている。
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A代表でも活躍
だからこそ、今シーズン無敗だったフロンターレを止めたことも、ペドロヴィッチ監督就任後で初めて鬼門・等々力陸上競技場で白星をあげたことも、そしてファーストステージの首位奪取も、遠藤にとっては通過点となる。
「もちろん自分にとっては初めての経験ですけど、浦和にとっては当たり前のことというか、毎年のようにこういう結果を求められている。最後はみんなと笑って終わるためにも、気を抜くことはできない。充実感はなくはないですけど、だからといってまったく満足もしていない。これくらいの結果を求めて移籍してきたというのもあるし、こういう結果を求められる環境に身を置くことで、さらに成長する自分を求めてきたというのもあるので」
ファーストステージを終えれば、キャプテンとして臨むリオデジャネイロ五輪が間近に迫ってくる。ハリルジャパンにおいても、2年後のロシア大会出場をかけたワールドカップ・アジア最終予選が9月から始まる。
ごく近い将来の海外挑戦を含めて、年齢との大いなるギャップを感じさせる冷静沈着さの内側に壮大な夢を描く次世代のリーダー候補生は、強豪レッズで築いた居場所を驚くほどのスピードで自分の色に染めている。