ファースト、セカンド両ステージを合わせたJ1の全34試合で、最も長い距離を走破したのは湘南ベルマーレの3939.826kmだった。1試合の平均距離は115.877kmに達した。ベルマーレの爽快感あふれるスタイルを見れば、5920回を数えたスプリント回数と合わせて、二冠を獲得したのもうなずける。
■データで知るサンフレッチェ広島の傾向
ならば、シーズン後半から圧倒的な力を発揮してセカンドステージを制覇。Jリーグチャンピオンシップではガンバ大阪を下して、年間王者を獲得したサンフレッチェ広島はどうだったのか。発表されたデータを見ると、意外な傾向が見えてくる。
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サンフレッチェ広島はJリーグアウォーズで最優秀選手賞など5賞を獲得
総走行距離は3780.614kmで全体の14位。ベルマーレと比べて、1試合平均で4.682kmも後塵を拝した。スプリント回数に至っては4424回でブービーとなり、ベルマーレに44回もの差をつけられている。
もっとも、実際のプレー時間となる「アクチュアルプレーイングタイム」となると、60分28秒で2位の川崎フロンターレに約1分半もの差をつけてトップに立っている。
これらの数字が何を意味しているのか。ボールがタッチラインやゴールラインをなかなか割らない。ファウルで試合が途切れる場面も少ない。実際、サンフレッチェは犯したファウル数391回、もらったイエローカード26枚でともにリーグ最少を記録している。
それでいて選手の運動量を表す数値は決して高くない。つまり、ボールをキープしている時間、特に自陣でパスを回す回数が極めて多いチームとなる。
実際、マイボールとなるとボランチの森崎和幸が最終ラインに下がり、3バックの真ん中を務めていた千葉和彦と短いパスをゆっくりと交換する光景に数多く遭遇する。
■可変システム
これらはすべて意図的。運動量が少ない。あるいは走らない。果ては、老獪だ――。どんなに揶揄されようが、サンフレッチェの選手たちはまったく意に介していない。困ったときに立ち返る場所があるからだと、森崎和は力を込める。
「ベースがあるのは非常に大きい。流れが悪いときや、今シーズンも結果が出ていないときもありましたけど、そういうときでも迷うことなく自分たちのサッカーを貫けるというのは、ウチのひとつの強みなのかなと。こういうサッカーでシーズンを通してやっていこうという、確固たるやり方があるので、迷走することはないと思っています」
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森崎和幸(右)
森崎和が指摘したベース、あるいは自分たちのサッカーとは、すっかりサッカーファンの間でもお馴染みとなった「可変システム」を指している。
基本陣形となる「3‐4‐2‐1」から、マイボールになると「4‐1‐5」へ、相手ボールになると「5‐4‐1」へ早変わりすることから「可変」なる枕詞がつけられた。そして、システムを変えるスイッチを入れる役目を果たしているのが森崎和となる。
きっかけは、J2を戦っていた2008年シーズンの序盤までさかのぼる。就任3シーズン目のミハイロ・ペドロヴィッチ監督のもと、サンフレッチェはオーソドックスな「3‐5‐2」を採っていた。
攻撃の起点となるのは、3バックの中央を務めていたリベロのイリアン・ストヤノフ。しかし、時間の経過とともに、相手もサンフレッチェを研究してくる。
相手のワントップにストヤノフの徹底マークにつかれ、攻撃を封じ込められる回数が増えてきた。手詰まり感を覚えるなかで、森崎和の脳裏に閃くものがあった。
【サンフレッチェ広島を最強たらしめた可変システムと現場監督 続く】