「ワールドカップの時に背中を押された曲で、歌詞をずっと見ていくといまの自分、いまのなでしこにすごく当てはまる。試合前やホテルの部屋などでもずっと聴いていた。試合前は緊張するけど『澤穂希なら絶対できる』と言葉に出しながら、絶対にできると思うと本当にできるんですよね」
自己暗示をかけるときに繰り返し口ずさんだのは、サビの部分に出てくるこの歌詞となる。
≪僕らならできるって思いながら闘って 新しい未来をイメージすればいい≫
電撃的な現役引退発表から一夜明けた12月17日に、都内で約300人のメディアを集めて行われた引退会見。代表質問から質疑応答に移ると、ひな壇に座る澤に対して音楽に関する質問も飛んだ。
「音楽からも力をもらっていると以前から話されていましたけれども、長いサッカー人生の中で、最も支えになった1曲を挙げるとすると何になるでしょうか」
「多分、1曲にはちょっと絞れないですね」
「パッと思いつく曲といいますか、何かとリンクしている曲となると」
「本当にたくさんのアーティストさんの曲を聴いて、励まされてきました。1曲となると難しいんですけれども、やはり2011年のワールドカップ・ドイツ大会のときに、ナオト・インティライミさんの曲を試合前に聴きながらモチベーションを上げたりして。いまでもそうですけど、すごく元気をいただいています」
心と体がハイレベルで一致させられない。以前とは異なる自分に気がつき、「今年いっぱいかな」と思い始めたのは、準優勝に終わった今夏のワールドカップ・カナダ大会を終えた直後だったという。
最終的な決断を下したのは12月に入ってから。澤の意思を尊重してそっと見守ってくれた夫で、ベガルタ仙台の運営・広報部長を務める辻上裕章さんに、そして母親の満壽子さんに連絡を入れた。
今後は「ちょっとだけ心と体を休めたい」と澤は屈託なく笑う。今年8月に電撃結婚しながら、神戸と仙台とで離ればなれの生活を余儀なくされてきた辻上さんとの、夫婦水入らずの時間も満喫したいはずだ。
それでも、日本女子サッカー界をけん引してきた不世出のレジェンドの第2章を周囲は期待する。日本サッカー協会内の要職から来夏の参院選出馬待望論まで、すでに新聞報道はかまびすしい。
(次ページ 澤穂希にしかできない仕事)
《藤江直人》
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