大谷翔平、圧巻すぎる投球に隠れた日本の拙攻 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

大谷翔平、圧巻すぎる投球に隠れた日本の拙攻

スポーツ まとめ
大谷翔平
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  • 中田翔
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  • 松井祐樹
  • 則本昂大のマウンドに集まる
  • 小久保裕紀監督
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中田翔が盗塁を決めた。WBSCプレミア12。2015年を締めくくる野球の国際大会で準決勝に駒を進めた日本は、11月19日、予選で5-0と完勝した韓国を相手に迎えた。

試合会場の東京ドームは、いつものペナントレースとは違う雰囲気で、ファンは一様に前回の韓国戦で先発した大谷翔平の、力強い投球に期待を寄せた。

はたして試合がはじまると、大谷は期待通りの投球を見せる。序盤は速球を中心に、フォークで締める投球。160キロを連発すると韓国打線は外野にもなかなか打球を飛ばすことができない。

一方の日本打線は、韓国投手陣のフォアボールをきっかけにランナーを出すも、あと一本が出ない。4回表まで0-0としていたが、4回裏、5番中田翔のフォアボールをきっかけに、7番中村晃がつなぎ、8番平田良介が三遊間を破る先制タイムリーを放つ。このあと、9番嶋基宏のショートゴロが韓国のエラーを誘い追加点。0-3とリードする。



中田翔がまさかの盗塁(c)Getty Images



その後、韓国は必死の継投。フォアボールを出しながらも日本打線に得点を与えない。裏を返せば日本打線はチャンスを与えられるも一本が出ない。

球場は、大谷翔平の快投に沸く。6回まで韓国打線を無安打。完全にねじ伏せた。

■大谷翔平からの継投

韓国の初ヒットは7回、1番鄭根宇が放った。

それまで速球を中心に組み立ててきた大谷の投球に変化球が増えた。そこで大谷の速球に目が慣れ始めた韓国打線が必死に食らいつき始めた。

大谷の快投には、球場のファンも半ば慣れ始めているところではあった。160キロの速球と、140キロ半ばの変化球を投じる大谷越しにみれば、韓国打線は、貧打にうつる。しかし、実際は大谷の実力が際立っているだけで、韓国打線が貧打であるというわけではなかった。

試合終盤にかけて1球の重みが増す野球においては、韓国がほぼチャンスを作れていないだけに、終盤に向けてドラマが起こるチャンスもまた多く残されているという布石もあった。



大谷翔平の投球は圧巻だった(c)Getty Images



8回、大谷に替えて則本昂大がマウンドに上がる。プレミア12における日本代表の投手陣、特にリリーフ陣の中では、もっとも信頼できる投手となっている則本。この継投のタイミングは、大きくずれたものではないとみえた。DH制が採用されていることからも、試合の流れ、大谷の疲労度合いにおいても、8回最初からの継投は比較的順当ではあった。

8回に登板した則本は、大谷とは一味違う速球を軸に、韓国打線を3者凡退に抑える。

0-3で日本がリードしたまま9回。8回の投球をみるに則本は万全に思われた。投手戦になった試合は、22時をまわったタイミング。スムースに最終回を迎え、日本代表侍ジャパン、決勝進出の光景が球場全体にチラつき始めていた矢先だった。

■圧巻の大谷に隠れた、日本代表の拙攻

9回表、韓国の攻撃。則本は先頭の8番代打呉載元、9番代打孫児葉に連打を許し、ノーアウト1、2塁となる。韓国打線、唯一のチャンスが9回に訪れた。ここで1番鄭根宇は、三塁線を破るタイムリー2塁打。韓国が1点を返す。

さらに2番李容圭への内角球が左肘をかすめデッドボール。ノーアウト満塁。ここで松井裕樹がマウンドへ。

この大会における松井の投球は、安定感を欠いた。澤村拓一などのリリーフ投手陣も安定せず、松井の登板機会を作り続けることは、勝利への限られた手段であると同時に、将来の日本代表に対する投資とも見て取れた。

9回表、1-3と韓国の追い上げムードが高まった状態のノーアウト満塁。ペンナントレースで抑えとして結果を残し続けてきた松井であったとしても、極めて困難なタイミングでの登板になった。ここで松井は押し出しのフォアボール。韓国に1点を許し2-3。この後に登板した増井浩俊が、韓国4番の李大浩に2点タイムリーを浴び4-3と逆転を許した。

■特別な機会に特別なパフォーマンス

9回裏、2アウトから中田翔に打順が回ると、意地のセンター前ヒット。最後は代打の中村剛也がサードゴロに倒れ試合終了。日本は韓国に劇的な大逆転を許し、準決勝で敗退した。

ペナントレースを終えたばかりの日本代表チームが、プレミア12の予選を全勝でクリアし、準決勝の韓国戦まで駒を進めたことは見事だった。日本プロ野球のスター集団を率いて勝ち続けた小久保監督の采配も、概ね評価されるものだろう。

この大会に参加したほぼ全ての選手が、負けたら終わりの高校野球を経験しており、一発勝負の難しさは身に染みているはずだ。準決勝の韓国戦では、特別な試合に特別な精神状態で結果を残せるか否かという、選手の度量が確認できたのではなかろうか。

2度の韓国戦に先発し圧倒的な力を見せた大谷翔平。数々のチャンスでタイムリーを放ち、韓国戦ではいきなり盗塁を決め、球場をどよめかせた中田翔。

ペナントレースとは異なる、普段着ではない試合で普段通りではないパフォーマンスを発揮する選手たちだ。「お祭男」とはよく言ったもので、長嶋茂雄や清原和博らに華やかさを感じるのは、普段着ではない場面で普段以上のパフォーマンスを発揮する、ここ一番にスター性を見るからだろう。

人間には波があり、野球の試合は流れに大きく左右される。小さなプレーの積み重ねが結果を大きく左右するなかで、普段通りのパフォーマンスにこそ、選手は精神の拠り所を求め、そのために日々の鍛錬を重ねるのが普通だろう。が、特別な状況、精神状態を生かして高次元のパフォーマンスに結びつける精神的な強さも、普段から意識することで鍛えられていくものなのかもしれない。

大谷翔平のスケールの大きさと、実力の現在地を測るには、格好の大会になった。
《土屋篤司》

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