朝房山は、案外魅力的な山ではないか。登ってから1カ月ほど経った今になって、そう思う。
その要因のひとつに、山にまつわる「昔話」がある。朝房山には、ダイダラボウ(だいだらぼっち)にまつわる伝承があったのだ。
その昔、朝房山があるために、田畑に日が当たらず作物が育たないと村人が嘆いていたという。また別の村人は、山のせいで日の出が遅くなってしまい朝寝坊してしまうため、「朝寝坊山」と呼んで朝房山の存在を煙たがっていた。ダイダラボウは村人の役に立とうと思い、その大きな身体で山を持ち上げ、現在の場所に移動した、というのがその昔話の内容だ。
このような話を読んだ上で山に登れば、いかに標高が低くて展望もなく、のっぺりとした道ばかり続く山だとしても、ハイキングが楽しくなるだろう。
だが、魅力再発見の最大の要因は、山そのものにはなく、山の周辺にあった。それは、温泉が近くにあるということ。城里町健康増進施設「ホロルの湯」がそれである。ホロルの湯は、朝房山から車でほんの数分の距離にあり、下山後に歩いて向かうことだって可能だ。
泉質は、身体に優しいアルカリ性(PH8.8)の単純温泉。露天風呂あり、プールあり、食堂あり、地元の農産物が買える直売所あり。温泉だけ入りに行っても十分楽しめる充実ぶりである。
施設の周辺は低山で囲まれており、温泉に浸かりながら里山の四季の変化が楽しめてしまう。例えば、今回ならば山桜。駐車場にも、周辺の山々にも、その鮮やかな桃色が映え、見るものをうっとりとさせてくれる。
ホロルの湯から少しだけ足を延ばせば、キャンプやサイクリングなどが楽しめるふれあいの里、恐竜の森という異名を持つ森林公園があり、さらにはゴルフ場、競輪場外車券売場などもあって、この一帯だけでも丸々2日や3日は遊べてしまうほどの観光地的要素が満載なのだ!
……などと、思わず近所の魅力を熱弁してみる。何せ、ホロルの湯には以前から何度も入りに行っており、森林公園は水戸市近郊の住民ならば遠足やら何やらで一度ならず二度は訪れているであろうなじみの場所であるから、思い入れが強いのである。
しかし、近所の里山周辺に、これほどの魅力が詰まっていたとは、灯台もと暗しとはまさにこのこと。山に温泉、キャンプ場に森林公園、ゴルフ場…。朝房山周辺だけで、魅力的な旅のプランが立てられてしまいそうである。
さて、近所の山の魅力を再発見したところで、次はどこの山に登ろうかと思案する(やっぱりちょっと遠出したいな。大子あたりの山にしよう)。旅の楽しみのひとつに、「遠出」という要素があることも、再発見させられた。
《久米成佳》
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