はたしてこのスポーツを知っているだろうか。キンボールに近いスポーツを挙げるのはなかなか難しい。動画を見てみればわかるが、特殊なスポーツであることが見て取れる。このスポーツで世界一を目指し続ける奥田慎司選手は、いったいどのような選手なのだろうか。キンボールの概要と未来について。
■キンボールってどんなスポーツ?
”KIN-BALL(キンボール)は、 直径122cm、 重さは約1kgのボールです。
メインのキンボールスポーツ・コンペティションゲームは、このキンボールを使用し、4人1組で構成されたチーム (おのおのピンク、グレー、ブラックに色分けされた3チーム)が 13~21m×16~21mのコートサイズ内でヒット(サーブ)やレシーブを繰り返す新しいゲームです。
一般社団法人日本キンボールスポーツ連盟公式ホームページより
文字だけだとわかりにくいので動画を見てみる。
少々特殊で得点の様子もわかりにくいが、楽しそうなスポーツである。
■第一印象は、「なんだか面白くなさそうやな」
---:キンボール、見てみるとバレーボールに近い感じなんでしょうか?
奥田慎司選手(以下敬称略):どの種目に近いかって言われてもなかなか難しいですね。どんな種目も入ってるような感じです。野球とかやっている人は、やっぱりサーブがものすごい早いですし、サッカーやっている人は、ディフェンスするとき足で守ったりするので。何に近いかって言われても、なかなか例えが難しいですね。バレーみたいな仕切りもないので。
---:なるほど。
奥田:正方形の20メートル×20メートルのコート内に、このキンボールがあって選手がいたらできるゲームです。
---:奥田選手はどこでこの競技に出会ったのでしょうか?
奥田:僕は大学で、様々なニュースポーツを行っているキンボールサークルを見つけて、そこでキンボールに出会いました。テレビで見たことがあって、ちょっと興味はあったので。まさか、こんなにはまるとは思わなかったですけど。(笑)
---:そうなんですね。
奥田:最初見たときは、大玉ころがしのボールが、言ったらもう、飛びかっている感じなので、「なんや、このスポーツは」と思いました。
---:やってみたらどうでしたか?
奥田:はじめて見た時は、正直、「なんだか面白くなさそうやな」って思ったんですけれど、実際にやってみたら、「ああ、深いな」って感じました。
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■キンボールの歴史、規模
---:そうなんですか。キンボールの競技としての歴史は長いのでしょうか?
奥田:カナダで発祥したスポーツです。1986年発祥といわれていますね。
---:スポーツの歴史の中ではまだまだ新しいニュースポーツといった感じ?
奥田:ニュースポーツです。最近競技種目としても一気に認知された感じですね。僕が始めた頃は、正直競技種目ではなくて、これから広めていって競技スポーツにしていこうという形でした。
---:競技としてオリンピック入りも狙っているのでしょうか。
奥田:それを連盟とも協力しあって、今、普及活動をいろいろしてるんですけど、時間がかかるようです。
---:キンボールは日本に何チームぐらいあるんですか?
奥田:大学などで6校ぐらいです。あとは社会人の仲のいい子たちで集まったりとかして。クラブチームというのがそんなにないんですね。大学のスポーツみたいな形だったんで、最近はちょっとクラブ的な感じで取り組んでいる所もあるんですけど、大体、男女のスポーツで60チームぐらい。大きい大会は集まったとしても、男子30チーム、女子30チームぐらいですね。
---:今、目指しているタイトルなどはあるのでしょうか?
奥田:スペインでまたワールドカップが開催されるので、そこで金メダルを取ることですね。
---:ワールドカップは、2年に1回?
奥田:はい、2年に1回です。
---:ワールドカップに出場するためには、日本代表にならないといけないわけですよね?
奥田:そうです。
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■初めての世界大会で。「自分は甘かった。世界に勝ちたい」
---:今生活は、1週間でいうとどういったリズムですか?
奥田:今は1年契約で、体育館で仕事をしています。休みの融通もかなり効くので、週2、3はキンボールの練習して、仕事が終わってからトレーニングしに行っています。
---:キンボールのことを考慮してくれる会社なんですね。
奥田:そうですね。
---:キンボールを趣味で終わらせず、競技の世界に入っていった理由は?
奥田:ワールドカップに行ったことがかなり大きかったですね。僕、始めて2年ぐらいで全国大会みたいな大会で優勝していたんです。強豪の大学がチームだったんです。ワールドカップがあるのは知っていたんですけれど、そこまで高い壁ではないんじゃないかと思っていたんです。
で、いざ出場することになって、甘い気持ちで出場したんですけれど、もうレベルの違いがすご過ぎて。そこで初めて、「自分は甘かった、本当に世界相手に勝ちたい」って思ったのです。もう、そこから燃えましたね。
---:メンバーによって、左右される部分はありますけども、日本代表として参加する方は同じような意思で参加していらっしゃる方が多いのでしょうか?
奥田:普通に就職して社員で参加してる人も居ますし、大体、大学生とかが多いので、その辺は休みを取って行っている選手も居ますね。最近はOBも増えてきたので、みんな仕事しながらです。
---:練習量はメンバー全員そろわないとできないですよね?
奥田:そうですね。代表候補の合宿は月に1回、「この土日で」とか、そんな感じで集まってるんですけど、それ以外はなかなか予定が合わない。週1回できたらいいかなっていうぐらいですね、他の社会人の人とは。
---:練習といっても、やっぱり相手が居ないとこの競技は練習にならないですよね?
奥田:そうですね。最低12名、必要なので。大学生の練習とくっつけてなど工夫します。結構、昔に比べたら競技の人口も増えてきたので、人数はそこまで気にしないで集まるような状況になってきました。
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■脳震盪、脱臼も…。意外と硬いボール
---:(キンボールの動画を見ながら)思いっきり走ってる感じがします。
奥田:そうです。もう助走つけて思いっきり打たないとサーブが取られるので。
---:ボールの重さはどれぐらいなのですか。
奥田:重さは1キロです。
---:1キロ…。
奥田:直径122センチなんで、本当に大玉ころがしの大玉と一緒ぐらいですね。空気がパンパンに入っているので、結構、衝撃はあります。外国の選手が思いっきり打ったら脳震盪で倒れたりとか、脱臼とか、結構ありますね。
---:ビーチボール的なボヨンボヨンという感じに見えました。
奥田:カチカチですね。テント生地みたいなものの中に風船みたいなものが入っていて、空気で膨らませてカチカチにします。
---:すごいですね。腕のどこの部分で打っているんでしょうか?
奥田:肘ぐらいですね。ラリアットみたいな感じです。
---:ラリアット…?
奥田:ボールの中心に大体、肘がくる形で思いっきり。
---:もともと、何かスポーツはされてたのですか。
奥田:もともとサッカーをしていました。
---:サッカーをしていたことが役立ったりはしましたか?
奥田:本当に全身使うスポーツで、取るときはどこでもいいので、スライディングとかして取ってもオーケーなんです、どこを使ってもいいので。そういった部分では、サッカーをしていて有利だったことはありますね。
---:他の国での競技の盛り上がりは。
奥田:そうですね。ヨーロッパではかなり盛んで。ベルギーとかはもう有料でテレビ中継とかも入ったりとか。本当に盛んです。日本でやったらそんな人数は絶対、集まらないですけど…。有料で見るぐらい面白いって、海外の方は言ってますね。
■「みんなが主役になれる」スポーツ
---:3チームいるっていうのはどうしてなのかなと思ってしまいます。2チームのほうが分かりやすい気がしてしまうんですけれども。
奥田:確かにその方が分かりやすいんですけれど、そもそも、このキンボールが作られたときに生涯スポーツというか、運動があんまり得意じゃない人に向けて作られたスポーツなんです。なので、4人全員がボールに触ってなかったら、サーブが打てないのです。
つまり、絶対に全員が関わらないとサーブが打てないですし、2チームでやるよりは3チームでやったほうが人数も多くできて、運動が苦手な子でも順番に打っていったら「必ず主役になれる瞬間がある」といった形で始まったスポーツなんです。それが、時を重ねて競技スポーツの部分が出てきて、今は、生涯スポーツと競技スポーツみたいな感じで2つに分かれているという状況です。その名残で、競技スポーツの方でも3チームはいまだにずっと3チームで。
---:ご自身が参加する中で、それを普及させたいという思いは?
奥田:そうですね、やっぱり新しいスポーツなんで、子ども向きの講習会とか行っているんですけれど、盛り上がるんですよ。見てるよりは、触ったほうが楽しめるスポーツなんで、それを多くの人に伝えていけたらなと思い、今、活動していますね。
---:どんな活動をしていらっしゃるんですか?
奥田:小学生の学校とかに講習会に行ったりとか、体験会とか。あとは、ちょっと興味持ってくれた人に指導する講習会だとか、学生も80人ぐらい集めて講習会とか。
---:小学生だと、この球、ちょっと大き過ぎたりしませんか。
奥田:意外と大丈夫です。ルールも年代に合わせて変えられるんですよ。小学生とかと同じルールでやっちゃうとなかなかうまくできないので、ちょっと簡単というか、ルールのレベルを落として競技するっていう形でやっているので、意外と小学生のほうが盛り上がったりします。
---:参加型スポーツとしてはすごく盛り上がりそうだと思います。
奥田:1人じゃ、小さい子って取れないんですけど、反対側から支えたら2人で取れることができるんですよ。みんなが関わったら強いんですね、なかなかボールが落ちなくて。落ちそうな所に人が行って支えてあげるとか。仲間思いなスポーツというか。自己中な子がおったらもう試合にならないんです。
---:そういった講習会って、ほとんどボランティアで?
奥田 ほぼボランティアですね。最近はでも、PTA行事とか、そういった名目で多少は頂いてるんですけど。
---:テレビに取り上げられることなどメディアへの露出は?
奥田 時期によるんですけど、くるときは新聞とかテレビもありました。
---:キンボールの中では第一人者的な存在に、今、なりつつあるんですか?
奥田:どうですかね?(笑)
■キンボールのこれから
---:もっとキンボールを世の中に広げていくために、若い年代を教育していくことなどについては。
奥田:小学生とかは結構、盛り上がったりしてるんですけど、中学校、高校の受け皿がないとか。協議会に帰ってくる子は大学生で帰ってきたりするんですけど、その辺もなかなか難しいみたいなんで。今、どこをターゲットにしようかとかいろいろ考えているんですけどね。
---:その辺の戦略もなんかこう、ご自身の中で少しプランがあるのでしょうか?
奥田:できたら競技に専念したいので、あんまり関わらないようにしているんです。いまは競技に集中させてくださいってお断りしていることもあります。
---:そうなんですね。地元地域とのつながりがあるのであれば、そこを拠点に強いチームをつくって…というような考えがあるのかと…。
奥田:そうですね。一応、神戸に僕が作ったチームがあって、関東とかにもあるんですけど、それがどんどん大きくなっていったらいいなとは思うんですけれどね。とりあえず、競技人口を増やしていかないと。僕も10年目とかになるので、下にどんどん伝えていかなと思います。
---:インターネットとかSNSとかがある中だと、色々と盛り上がって、なにかが生まれてたりするのではないのかと思っているのですけれども、どうでしょうか?
奥田:いや、多分、ほとんどキンボールのことを知らない人なんで、見ていただいてちょっとでも興味を持っていただければ御の字ですね。ほとんどの県に一応、連盟も作って配置はしてるのですが…。
まずは、知っていただく。最近、「なんか見たことある」とか、そういう声がちょっと増えたかな、ぐらいな感じですね。でも、まだまだ、全然、認知度ないんで。
---:生涯スポーツというと、少しお年を召した方もできるのですか?
奥田:そうですね。今、新しく一般の参加なんですけれど、競技者が増えてきたので、50歳オーバーの人限定の大会とか、そういった大会も開催しているので、ちょっとずつ増えてきたかなって思います。
---:競技の第一人者として、競技に対してできることが出てくるのかな、と思いますけども、今のところどうでしょう。経済面も考えないといけませんし。苦しい部分は。
奥田:苦しい部分ですか? やっぱり金銭的にはかなり厳しいですけどね、用具とかも高いので。このボール、6万円ぐらいしちゃうんで、それをそろえたりとか、合宿とか、その辺は厳しいですね。その分、働かないと稼げないので、働きながらトレーニングしていくと、体調をくずしそうになったときもあるんですけども。
---:今後の意気込みを。
奥田:4月に代表選手が発表されるので、まず代表選手に入って、そこから金メダルにつながるようにしたいな、と。
---:金メダル、取った場合は、その後の取り組み方などどうしますか。
奥田:いや、それは取ってから考えます。僕、4回出てて、銀メダルが3つと銅メダルが1つなんで、もうすぐのところまできています。初めは、カナダのチームが一番強いんですけど、かなりのレベル差があったんです。しかし、2年たつごとにちょっとずつ縮まってきていて、現在もう勝てるとこまで来てるんですよ。
なので、次こそはって思ってるんですけど、年齢的にもかなり厳しくなってくるスポーツでもあるので、体力など、身体自身もしんどいものもあるので、早めに取りたいなと思いますね。
---:世界ランキングが分かるような、グローバルな指標などはあるんですか?
奥田:アジア連盟が2014年から設立されています。
---:なるほど、オリンピック競技になるのも別に夢ではない?
奥田:そうですね。順調というか、増えてるのは増えてきてるので。
奥田選手を応援する!