新興ブランドニールプライドが目指す世界 vol.1 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

新興ブランドニールプライドが目指す世界 vol.1

オピニオン インプレ
新興ブランドニールプライドが目指す世界 vol.1
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安井行生のロードバイク徹底インプレッション
安井行生プロフィール

新興ブランド、ニールプライドが目指す世界とは
自転車部門を設立してからまだ3年しか経っていない新興メーカー、ニールプライド。ロードフレーム3作目にして早くもトップブランドが鎬を削る「超軽量ロードフレーム」という激戦区に進出した。剛性や乗り心地を犠牲にせず究極の軽さを目指す…という理想論的コンセプトを掲げ、Sサイズで710gを達成したビューラSL。どんな新世界を体験させてくれたのか。
(text:安井行生 photo:我妻英次郎/安井行生)
みんながみんな絶賛するビューラSL
同業者と雑談をしたりインプレ取材に同行したりしていると、新型バイクの印象について文字にはならない (できない) 本音が聞けたりもするのだ。それが密かな楽しみだったりもするのだが、しかしビューラSLに関しては、全員が全員絶賛に終始するので全く面白くない。これは自分で乗ってみなければ、と代理店に電話してみると、Sサイズの試乗車が下北沢のカフェ・サコッシュに置いてあるという。梅雨の時期にしては天気のいい日曜日の夕方、サコッシュに取りに行くと店長の中村さんが 「これにライトウェイト履かせたときのキレはすごいですぜ」 と言いながら渡してくれた。
ニールプライドはウィンドサーフィンのマストやセイル、周辺機器の製造を手掛ける老舗のマリンスポーツブランドである。80年代からカーボン素材を扱っており、カーボンに関する知識も豊富だ。3年前、創始者ニール・プライドの息子であるマイク・プライド (自転車部門の現社長) がサイクリストだったことから自転車ブランド、ニールプライドが立ち上がる。
このような異業種参入型の自転車ブランドは、ベテランの自転車乗りに敬遠されることが多い。歴史と経験がいいフレームを作ると信じられているし、生まれながらにして持っている自転車への情熱がバイクに魂を宿すと信じられているからだ。しかし、ニールプライドの場合は事情が異なる。初作となる2台 (アリーゼとディアブロ) の出来がよかったことに加え、元々空力とカーボンに関する技術に長けているというイメージ、マイク・プライドの自転車好きが高じてブランドを立ち上げたというヒストリー、洗練されたルックスなどが好意的に受け入れられたのだろう。
このビューラSLはそんな新興ブランド、ニールプライドのロードフレーム3作目である。開発テーマは、「剛性や快適性を犠牲にせず、どこまで軽くできるか」。軽さを重視したフレームというわけだ。フレーム重量はSサイズで710g、Lサイズで760g。市販品より80g軽いプロトタイプ (フレーム重量600g前半!) もテストされたが、やはり剛性面で不足が出てしまった。素材は 「東レの高弾性カーボン」 としか発表されていないが、これ以上弾性の高い素材を使うと破断しやすくなってしまうというレベルの、自転車用として最高クラスのものだという。このように少々過激な設計に思えるフレームに対し、フォークはしっかりとした作りになっているとのこと。前作ではBMWデザインワークスUSAとの共同開発で話題を呼んだニールプライドだったが、ビューラSLにBMWの手は入っておらず、社長であり技術者でもあるマイク・プライド氏とユナイテッド・ヘルスケアチームとで開発を行ったモデルである。
vol_65 NEILPRYDE BURA SL

スペック
キャプション
「剛性」「快適性」「軽さ」の同居という難題に挑む
前作とはガラリと方向性を変えた超軽量フレーム
見た目は実に個性的だ。前作2台 (ディアブロとアリーゼ) は空力を強く意識した流麗なデザインを持ったモデルだったが、空気の流れを感じさせるそれらから一転、軽さと効率に重点を置いたというビューラSLは、円柱と角柱が唐突に突き合わされるという無骨な雰囲気を持つ。角と丸、太と細が明確に分かれたメリハリのあるフレームである。惚れ惚れできる妖艶さはないが、力強い造形の魅力がある。
ジオメトリを見てみる。フォークオフセットやチェーンステー長は全サイズで共通だが、ヘッドチューブも長すぎず、ヘッド角やシート角もバランスが取れているという印象。ただ、XSとSサイズのBBドロップが75mm、Mサイズ以上は70mmと差が大きいことは気になる。S以下とM以上で乗り味が大きく変わる可能性はなかったのだろうか。しかしこのBBドロップを除けば、全体的にオーソドックスなジオメトリである。
トップチューブは横に広い長方形断面。オフィシャルサイトにはこの形状の説明として、「ねじり剛性を上げるため」 だと書いてある。しかし、パイプのねじり剛性が最も高くなるのは円断面であるはずだ (同じ素材量、同じ肉薄の場合)。このような長方形断面にすると、パイプ単体のねじり剛性は落ちる。
おそらく、トップチューブ単体のねじり剛性ではなく、ヘッド周辺全体のねじり剛性を上げたという意味だろう。トップチューブの断面を横に広い長方形にすると、チューブ自体は左右方向に曲がりにくくなり、ヘッドチューブを左右にねじる動きを抑える方向に働く。よってヘッド周辺のねじり剛性がアップするのだろう。横に偏平しているので上下方向には曲がりやすく、路面からの振動をいなす動きもできる。
実走でも設計意図通りの効果が感じられる
しかし、応力が集中しやすいパイプ接合部で余計な動きはさせたくない。そこで登場するのが、ビューラSL最大の特徴である補強リブである。このリブについて担当者は、「リブを配したのは最も強い応力が加わるヘッドとシート周り。もちろんカーボンの積層を増やせば剛性を上げることはできますが、重量がかさんでしまいます。このリブを付けることで、軽さを犠牲にせず剛性を上げることができました。実際の試験でも、重量はほとんど増えていないのに剛性値が向上したことが証明されています」 と教えてくれた。
トップチューブ両端にリブを入れることで軽さを保ちつつ接合部をしっかりと作り、上下に薄い肉薄トップチューブの弱さを補完したのだ。そうして、トップチューブ中央部のみが上下方向にしなるような設計にしたのではないか。これは実走から受ける感覚ともリンクする推察である。超軽量車なのに、わざとハンドルを大きく振っても挙動が破綻せず、操作にちゃんとフレームが付いてくる。それでいて快適性は驚くほど高いのだ。
前側のリブは、ハードブレーキング時にも効くだろう。トップチューブとヘッドチューブの間に設けられたリブは、ヘッド~フォークが後方に変形する動きを抑える働きがある。実際に、軽量フレームとは思えないほどハードブレーキングへの耐性が高い。
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