4年ぶりの旗艦LOOKは新時代をひらけるか vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

4年ぶりの旗艦LOOKは新時代をひらけるか vol.2

オピニオン インプレ
4年ぶりの旗艦LOOKは新時代をひらけるか vol.2
  • 4年ぶりの旗艦LOOKは新時代をひらけるか vol.2
「たわみ」はあるが「無駄なたわみ」は一切無い
安定性は間違いなく世界最高
肝心の走りはどうか。予想と評判に違わぬ高性能である。初期加速はそれなりに鋭いが、ではこれが世界最高かと言われると決してそうではない。695は驚異的爆発力で一気に炸裂させるタイプではない。しかし綺麗なペダリングで回転を上げたときに淀みなくスムーズにスピードを上げるような所作は、コルナゴ・EPS系の 「高速域におけるドッカン加速」 が低速域から、かつ緩やかに訪れる感じと言えるかもしれない。軽いダンシングでパワーを加えれば、小さな爆発を繰り返すようにリズミカルに加速する。このあたりは旧作585の美点を受け継いでいる。
ブレーキング性能、そしてハードブレーキング時の安定性は間違いなく世界最高である。LOOKはフロントフォークの出来が他メーカーに比べて突出している印象があるが、695の対制動性は585や595を超えたように思う。ヘッド~フォークの剛性は非常に高く、何をやってもフレームに起因する不安感はゼロである。その分、いいタイヤは必須だと言える。
近代LOOKの持ち味だと言われているヒルクライム性能はどうか。これも当たり前のように軽い。いい意味での 「ヒラヒラ感」 を伴いながら駆け上がる様は585や595に共通する。しかし激坂で重いギアを無理矢理踏み込んでみると、ガッチリとした剛性感が顔を出し、585や595にはあった 「超ド級の軽快感」 とは少し異なる、硬質で重厚感に溢れたフィーリングを感じる (硬いホイールを組み合わせるとこうなりやすい)。695SRの絶対的フレーム剛性はかなり高いのだ。VXRSは 「不快にならないギリギリに柔らかい」 が、695SRは 「不快にならないギリギリに硬い」 という印象で、最新鋭車ながら、ときとしてバンカラであからさまな野生の挙動を見せる。そんなときの695は、ライダーにそれなりのペダリングスキルと脚力を要求する。
しかしもちろんアホみたいにただ硬いわけではなく、フレームの振る舞いはさすがに洗練されている。ペダルへのトルク入力の変化に対してリアホイールへの出力の仕方が非常に正確で、足と路面が連結されているようなダイレクト感を得ることができる。ペダル入力の数ワットの差が、695では明確な加速力の差となって表れるのだ。路面の凹凸はつぶさに伝えてくるため、695SRに過度な快適性を期待してはいけない。しかしショックのシャープな角はしっかりと丸くして、上下振動をトン!と一発で収束させる。
ハンドリングはかなり過激だ。フレームサイズXSに関して言えば、手首をスナップさせるとバイクがスパーンと回頭して目が覚める思いをすることになる。ここは585のやんちゃな性格をそっくりそのまま受け継いでいると言え、個人的にはかなり好みの味付けになっている。レーンチェンジを行う度に、コーナーを一つ回る度に、フレームがピクピクと敏感に反応する様を感じ取ることができ、なんとも嬉しくなってしまう。
慣れれば自由自在に振り回せるが、しかし温厚な直進安定性重視設計に慣れている人が無茶をすれば容赦なく振り落とされるだろう。玄人向けではあるが、コーナーを抜ける度にここまでの快感を与えてくれるフレームはなかなかない。
ただ、確かに 「このド下手!」 と言ってくるほど過激ではあるものの、「分かってあえてやっている」 という感じは受ける。フレームの硬さにしてもハンドリングの味付けにしても、根っからバカの585とか根っから筋肉バカのプリンスカーボンなどとは違って、知能指数が高いのだ。
そんな過激なハンドリングを持っているのに、ダウンヒルでの安定性は特筆すべきレベルにあるのも、また695の凄いところであり、“知能指数が高い” と感じた所以である。下りでちょっとばかり攻めてみても、ヘッド~フォークがどっしり安定しすぎていて、映画のスクリーンを観ているみたいに視界に現実味がない。恐くないのか、逆に恐いのか、よく分からないほどだ。
まるで夢のような“路面直結感”
695SRから受ける印象を一言でまとめてみると、「曖昧さを完全に排除することに成功したフレーム」 ということになると思う。「たわみ」 はあるが、「無駄なたわみ」 が一切無いのである。これが 「695の味」 ということになるだろう。スムーズとかトラクションの塊とかというよりは、とにかく 「走りの精度の高さを目指した」 という感じ。ペダリングにしてもハンドリングにしても僅かな入力を明確な出力としてしっかりと表現するという “曖昧さを完全に排除した” 見事なフレームに仕上がっている。高トルクをかけているときの路面直結感といったら、まるで夢のようである。この 「入力に対する反応の正確さ」 は、500番台世代から大きく進化している部分だろう。
しかしこのガッチリ度合いは、完全にプロ仕様だと感じる。「楽しくサイクリングできるスポーツバイク」 の範疇は外れてしまっている。並の体力ではこのSRにはついていけない。少なくとも、筆者レベルが必死になってペダルを踏みつけてもフレームの限界は地平の先にすら見えてこない。ほとんどの週末ライダーにとってこの 「世界最高の超精密ダイレクト感」 は足枷にしかならないレベルのものかもしれないが、それを分かっていながらこのフレームをここまで作り込んでしまうのは、LOOKというメーカーの凄さであり、恐さでもある (ノーマルバージョンは一般ライダーにも乗りやすく仕上げられているのだろう)。
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「生き残るための課題」に対するLOOK流の答え
トータルエンジニアリングの代償
筆者の場合、完璧にポジションを出したはずなのにどうにも納得がいかず、三日三晩悩んだ。悪さをしていた犯人は、どうやらルックご自慢のZED2クランクである。正確に言えば、ZED2クランクのQファクターである。ZED2クランクのQファクターを実測すると、なんと150mmもあった (シマノは145~6mm、カンパニョーロは145.5mm)。この差、数mmがスムーズなペダリングを阻害していた可能性は大きい。骨盤の幅が狭い筆者のような乗り手にとってこれは、軽量化と高剛性化とトータルエンジニアリングの代償だと笑って許せるレベルの話ではない。
アーム~シャフトをカーボンで一体成型することで剛性と軽量化の両立に成功し、3種類のクランク長と2種類のPCDという合計6パターンを一つの製品で共通としたことで製造コストを抑えることには成功しているだろうが、クランク長を167.5mm以下には設定できないし、結果として 「小柄なライダーを無視したクランクセット」 になってしまっている事実は否定できない (ペダル取り付け部の組み付け精度が原因でペダルが真っ直ぐ付かないこともありえると個人的には思う)。このフレームはC2ステムとZED2クランク込みで設計されているのだろうが、トータルエンジニアリングよりポジション・精度が優先する。このクランクは、筆者の695に対する第三の (そして最大の) 不満である。
ただ、ZED2クランクのチェーンリングを除いたシステム重量 (クランク+ベアリング+ペダルシム+5ピン) は実測508gと、確かに異常なほど軽い。79系デュラエースに入れ替えた場合のシステム重量 (クランク+79BB+アダプター+5ピン) は687g。約180gの重量面でのビハインドはロードバイクにとって決して小さいものではない。よって、Qファクター150mmが気にならず、精度高く組みつけられる技術を持っている人にとっては、ZED2は最高のクランクセットとなるだろう。
しかし、アダプターを入れるからといって、ZED2の軽さに対抗しようとヘタクソな軽量カーボンクランクなどを使おうとしてはいけない。入れ替えるなら、少々重くても剛性に定評のある本当の高性能クランクを使うことだ。デュラエースクラスなら695のフレーム性能をスポイルしてしまうようなことはないだろう。
それにZED2クランクは、スパイダーアームをインナーとアウターで挟み込むという通常のタイプとは違い、クランクの内側にアウター&スペーサー&インナーがぶら下がるという特殊な締結方法を取る。これではスペーサーと5ピンに負荷が集中するような気もする。クランク自体の剛性は高いのだろうが、チェーンリング周りを含めたトータル剛性ではメリットが薄まるかもしれない。コンポメーカーのクランクを入れれば純正のチェーンリングが使えるようになるため、チェーンラインやFメカの調整で苦労する必要もなくなる (原稿執筆中に行われている2011ツールを見ると、コフィディスの選手が695にFSAのクランクを付けて走っているのが見受けられるが、これはチェーン落ちなどのリスク回避か、スポンサー絡みが理由だろう)。
これからの高性能ロードの開発テーマとは
695は、585の生まれ変わりというより、586や595の進化系というより、それらとは異なる全く新しいタイプのフレームであると感じる。ただ、本当の実力を知るには本気で向き合う必要がある。軽く転がした程度では695の真価は体感できない (筆者も最初は 「軽薄なドグマ」 とか 「筋トレしたマドン」 といった程度の印象しか受けなかった)。パワーとスキルを全力投入して乗りこなせば、どんなフレームよりもあらゆる点で優れている、と感じることができる。高Gが上下左右から次々とバイクに襲いかかる修善寺CSCでのインターバル的なレースに695で出場したとき、このフレームを買ってよかったと心から思った。レース用フレームとして最高の評価を与えたい。
しかしその代償として、ヒリヒリとした危うさは薄くなった。抗うのも難しいほど我々を虜にする常軌を逸したスリルのようなものは消えてしまった。KG481やVXRSらがときとして感じさせてくれていたようなトルクオンでハンガーをふわっとスウィングさせる情緒的で女性的な温もりも、ここにはない。しかしこれが、2011年現在のロードシーンにおける 「正しい進化」 というものである。良い悪いではなく、これこそが現在ほとんどのメーカーが目指している方向性なのである。だから、欠点だらけで荒削りで曖昧で演出過多なフレーム達が無性に恋しくなったりすることも、時としてあるかもしれない。
それでも、このLOOKの新世代は無味無色になりつつあるロードシーンで明確な個性を光らせている。過激で魅力的で乗り手を選ぶハンドリング、LOOKらしい軽快感、これ以上ないほどのダイレクト感…今までのLOOKとは明らかに異なるが、これは紛れもなくLOOKである、と誰もを説き伏せる説得力がある。時代の変貌に合わせて自身の姿を自在に変え、いつの時代も 「らしさ」 を保ちながらトップクラスの動的性能を維持する。それが近代LOOKの魅力であり、凄さである。万人に勧められるバイクではないあたりも、らしい。
ここ数年の各ブランドの最高級モデルに乗ってしみじみと思うのは、これからはハイエンドクラスの 「らしさ」 をどう明確に演出するのか、あるレベルの走り品質を達成しつつあるフレーム達の 「走りのアイデンティティ」 をどう確立していくのか、というテーマが高性能ロードフレーム開発の焦点になってくるだろう、ということである。これはおそらく 「走り品質の向上」 より数倍困難で数倍複雑な開発・熟成作業を設計チームに要求するだろうが、しかし全てのトップブランドに共通する 「未来への生き残りをかけた課題」 となるはずだ。LOOKは、数年前に突如として突き付けられたそんな課題を、この695で鮮やかにクリアしてみせたのである。
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