エンデュラスロード界の革命児…か? vol.2 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

エンデュラスロード界の革命児…か? vol.2

オピニオン インプレ
エンデュラスロード界の革命児…か? vol.2
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快楽指向ではなく実性能重視
空論ではなく実効果アリのISOスピード
ハンドルを交換しようとして分厚いバーテープをはがしたら、テープの下から衝撃吸収ゲルが出てきた。ISO Zoneパッドというものらしい。これに加え、試乗車はクッション性の高いサドル、エアボリュームのあるタイヤで武装している。もの凄い念の入れようである。メーカーが用意した状態で乗っただけだと、これら後付け快適装備にごまかされてしまう可能性が大いにある。今回はフレーム単体での実力を見るため、タイヤ、ホイール、サドル、ハンドルなどを全て交換して試乗を行った。
自分仕様にして走り出しても、ISOスピードの効果はしっかりと出ていた。悠然とギャップを飲み込みながらも、フレームの横剛性は高い。軽く踏んで軽く振ったときの機動は鮮やかで、低負荷域では軽快感に富む。ただ、負荷を上げていくと、ハイエンドモデルである6シリーズでさえ、反応はゆったりとしたものになる。しかし、それをネガティブな剛性不足とは決して感じさせないのがドマーネの見所だ。マドンと比較すると確かに反応は鈍くなるが、モッサリ感というよりしなやかになるというポジティブな印象。そんな剛性チューニングについても聞いてみた。
Q:カーボンフレームを設計するうえで、チューブがたわむ方向やたわむスピードなどの、"どうたわむか" は考えているんでしょうか?
A:もちろん。コンピューターを使ってのシミュレーションを行っているので、どこにどれだけの剛性やたわみが必要かは分かります。それによって、高弾性のカーボンシートが必要な場所や、あえてしなりを活かすべき場所、カーボンシートを配する角度などを判断し、それらをふまえた設計にしています。私自身もそうなんですが、トレックには航空宇宙関係にいたエンジニアがそろっていますので、こういったカーボンの扱いには長けていますよ。
表面はソフトだが芯は強靭
入力の細かな強弱変化にピクピクと反応するような敏感なフレームではないため、眠いバイクだと思う人もいるかもしれないが、入力を大きくすればするほど幅広いダウンチューブが脚力をしっかりと受け止めている実感が強くなる。表面はソフトだが芯は強靭なのだ。スプリントをしてみれば分かる。伸びのよさに驚くはずだ。トップチューブとシートチューブを固定しないという従来とは全く異なった構造のフレームの剛性バランスをここまで整えるのは困難な作業だっただろう。
イメージでは、低トルク高ケイデンスでクルクルと走らせるのが合いそうなドマーネだが、走り込んでいくうちに、いつのまにかビッグギアでグイグイと踏み込んで、じんわりと立ち上がってくる強大なトルク感を楽しむようになっていた。快楽指向ではなく実性能重視。奇怪な機構を取り入れてはいるが、ドマーネは乗り手が思っている以上に速く走ってくれるのだ。
だからといって振動を完全に消してしまうのではなく、衝撃の角はしっかりと丸められているが、情報はキチンと伝わってくる。ドマーネはここが素晴らしい。路面のインフォメーションを全て消し去ってしまうコンフォートバイクほど怖い乗り物はない。路面の状況がどうなっているのか、いつ滑り始めるのかがサッパリ分からないからだ。
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安楽さと走行性能の両立は賞賛すべきレベル
走りはさほど犠牲になっておらず、完成度高し
振動吸収能力も高いが、減衰も速い。入ってきたショックをブルンといなしたあと、1ストロークでピタリと止めてみせる。ただ、無条件にいつなんたるときも減衰が速い、という訳ではない。車道と路肩を分ける白線の中には、注意喚起のために細かな凹凸加工が施されているものがある。そのような非常に細かい凹凸が連続するような箇所を高速で通過すると、振動がシートチューブ部と共振してしまうのか、フレーム全体がブワーンと共鳴するのである。どんなホイールで走っても同じ現象が出たので、ホイールとのマッチングではなくフレームの作り、もっと言えばISOスピードに起因する現象だろう。とはいえこれは、非常に限定された状況での瑕疵にすぎない。
ハンドリングは意外にもナチュラル。その形状やホイールベースから直線番長かと思ったが、素直な操作性を持っている。もちろん直進安定性は非常に高いが、従来のレーシングバイクから乗り換えてもさほど違和感はなく、レーンチェンジ動作が遅くてイライラするようなこともない。さすがはトレック、完成度が高い。
しかし、試乗車に付いていたホイール (ボントレガー・レースライト) では、ドマーネの性能を引き出せない。軽量なカーボンディープホイールを入れるとシャキッとしつつ振動減衰性がさらに向上する。これがドマーネ本来の姿だろう。損をする試乗車である。
重要なのは、マドンとの比較である。担当者に聞くと 「どちらもレーシングバイクですよ」 という都合のいい答えが返ってくるが、しかし日本の路面はレースでドマーネが必要になるほど荒れてはいない。パヴェの上を本気で爆走する人もいない。日本の路上で機敏な動作を楽しみたいのなら確実にマドンを選ぶべきである。レースユースなら、基幹はマドン。ドマーネは傍流の存在だろう。
しかしドマーネの総合評価も決して悪くない。過剰なまでに快適でありながら走りもさほど犠牲にはなっていない。感じる以上に速く、スプリントでもちゃんと伸びる。ここまでの安楽さと走行性能の両立は賞賛すべきレベルのものであり、「とにかく安楽に走りたい」 という向きにはお勧めできる。飛び抜けた鮮烈さは備わっていないが、路面の状態をきちんと伝えてくれるため、安心して身を委ねられる。
本末転倒のギリギリ一歩手前
しかし、こういうギミック (といって悪ければ独特のメカニズム) を持つロードバイクは難しい。琴線に触れまくる人もいるだろうが、「ロードフレームとはシンプルであるべき」 という美意識を心底に抱えている人は、性能の良し悪しにかかわらず、ドマーネを徹底的に拒否するだろう。無駄なものを完全に排除したシンプルさに美を見てしまう日本人は、特にその傾向が強いように思う。
おそらく作り手側もそれは承知している。快適性への欲望が暴走したようなアクの強い作りになっているのだから、拒絶もあって当然である。そのような危険を孕んだ製品を主要モデルとして送り出してしまったトレックの思い切りの良さには驚かされる。
しかし、この 「欲望の暴走」 はこれ以上加速しないだろう。ドマーネのサドルに体重をかけると、シートチューブは盛大にたわむのが目に見える。シートチューブやサドル周辺をこれ以上ソフトにフレキシブルにしてしまうと、サドルの位置決めが曖昧になる可能性が出てくる。ミリ単位でサドル位置を調整するロードバイクにおいて、それは許されない。
上下に動く (サドルハイトが変わる) のを嫌って後方にしなる構造としているのだろうが、サドルの前後位置は変化してしまう。ペダリング中であればサドルにはさほど荷重はかからないので、ISOスピード程度のストローク量なら問題ないという判断が下されたのだろう。パワフルにペダリングしていると、サドルにかかる荷重はたった数kgになるというデータをどこかで見たことがある。しかし体重のあるライダーにとっては、このISOスピードが限界ラインではないかと思う。これは、「本末転倒の一本手前にいるギリギリの存在」 なのである。
さらに言わせてもらえば、筆者は 「ロードバイクとは、速く走るための機械であると同時に、一体化することを愉しめる機械であるべき」 だと思っている。限りある人力で、どこまで機敏で非日常的な高負荷機動を楽しむことができるか。ギュッと引き締まったシンプルで美しい肢体とどこまで一体となれるか。それをどこまで自由自在に操れるか。路上でどこまで恍惚となれるか。それが重要なのだ。ドマーネは、そんなある一点に収斂させるような走りは要求してこない。バランスはいいので身体と親和はするが、一体化できる/できないということを考えさせる領域に連れて行ってはくれない。
このドマーネは、あくまでも実用的な高性能高速移動車なのである。走りそのものを楽しむというより、長距離を速く走り切るための手段として最適なバイク。それこそがエンジニアが狙ったポイントなのだろう。それに、今までにはなかった "ロードバイクという乗り物の縁ギリギリにいる感じ" を楽しむのも決して悪くはない。ドマーネというバイクの面白さは、まさにそこにあるのではないかと思う。
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