【THE INSIDE】花咲徳栄の優勝、新スターの誕生…第99回全国高校野球選手権大会・雑感 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE INSIDE】花咲徳栄の優勝、新スターの誕生…第99回全国高校野球選手権大会・雑感

オピニオン コラム
『雲は沸き光あふれて…』
  • 『雲は沸き光あふれて…』
  • 智弁和歌山の人文字「C」
  • ピンチに集まる明徳義塾ナイン
  • マウンドに集まった盛岡大附ナイン
  • よく戦った津田学園ナイン
  • よく入った甲子園球場
  • 黄色く染まった前橋育英応援席
  • 花咲徳栄・綱脇君
雨で1日開幕が遅れた今年の全国高校野球選手権大会。その後は、1日天候不順の予報で順延となったものの、予定していた休息日も設けることが出来て無事終了した。

優勝したのは、埼玉代表の花咲徳栄だったが。3年連続5回目の出場で果たした快挙だった。そして、同時にこれは埼玉県勢として初となる夏の甲子園全国制覇ということになった。

県内には浦和学院という強豪がいるが、その浦和学院も夏の甲子園では全国の頂点には立っていなかっただけに、埼玉県の高校野球関係者としても悲願達成ということになった。

また、記録を見れば、これで3年連続して関東勢の優勝ということになる。さらには、4年前の第95回大会でも前橋育英が初出場初優勝を果たしており、過去5年間を見ても関東勢が4度、夏の甲子園を制していることになる。それだけ、関東地区のレベルが高いということも言えるだろう。

花咲徳栄・綱脇彗君

参加校の多い神奈川県が最激戦区ということは頻繁に言われているけれども、今年の神奈川代表の横浜は、初戦で熊本代表の秀岳館に敗退。相手も強かったのだが、必ずしも最激戦区の代表が強いということではないということも言えるのか…。そういえば、全国2番目の出場校数となる愛知代表の中京大中京も、初戦で準優勝した広島代表の広陵の前に逆転で屈した。

図らずも、その両試合がいずれも大会4日目に集結。さらには、雨で延びたということもあって今年から制定された国民の休日・山の日と重なった。そのため、この日の甲子園球場は朝8時のプレーボールの段階でほぼ満員だった。

そうした過熱した人気も後押ししたのか、熱気でボールがよく飛んだのかはわからないが、今大会は大会通算の本塁打記録が誕生した。そして、その中心的な存在が、同日登場していた広陵の中村奨成君だった。中京大中京戦では2本塁打を放って、チームを勝利に導いた。

広陵は、2回戦でも優勝候補筆頭にあげる人も少なくなかった秀岳館に対して堂々の戦いぶりで勝利。さらには、11年連続出場の福島代表の聖光学院を下し、さらには宮城代表の仙台育英、奈良代表の天理と、それぞれの地区を代表する全国に名だたる競合を撃破して10年ぶりの決勝進出を果たした。

思えば10年前、広陵は絶対的に有利と言われた決勝で、8回表まで4対0と完全に深紅の優勝旗に手が届きそうな状況だったのが、逆転満塁本塁打で屈し準優勝に終わった。それ以来の決勝戦だったが、今年も6対4くらいで広陵有利という声が多かったが、花咲徳栄の勢いが勝った形となった。広陵としては、夏はこれで通算4度目の準優勝となった。伝統であるとともに、ジンクスにもなってきている。

近年(ということに限ったわけではないが)、最終的に高校野球はスター選手にスポットが当たっていく傾向が強い。そういう意味で、今大会のスポットの中心にいたのは、広陵の中村君だったことは言うまでもない。

秀岳館 対 広陵

ことに、大会前からスポーツ紙などでは必要以上に(という印象を、個人的には受けてしまっていたのだが)早稲田実の清宮幸太郎君にスポットが当たっていた。しかし、最終的に、早稲田実は西東京大会決勝で敗退して清宮君の甲子園入りはならなかった。

メディアとしてはこの段階で新しいスター候補探しに向かっていくのだが、そんなこととは関係なしに、中村君が連続本塁打を放っていくことで、大会の中で誕生したスターとしての立ち位置を掴んだ形となった。広陵の相手が、優勝候補にも挙げられそうな強豪が相次いでいたということも注目度を上げていった要因だろう。

その一方で、試合ぶりとしては、関東対決となった前橋育英と花咲徳栄の両校の対決は、質の高い対戦だったという印象だ。そして何となく、「この試合で勝った方が決勝まで一気に勝ち上がっていくのではないか」という予感はしていた。結果としては、その通りというか、それ以上に勝った花咲徳栄の勢いはすさまじく、決勝でも広陵に大勝したのだった。

花咲徳栄は、別に時代を先取りしたということではないのだろうけれども、ことごとく継投で勝ち上がっていった。先発の綱脇彗君は制球力があり、安定している。リリーフの清水達也君はいくらか制球に不安はあるものの、球速では前橋育英の皆川喬涼君と双璧で150km近い球速を叩きだし続けていた。岩井隆監督は、綱脇君と清水君を上手に使い分けて…というよりも責任分担を明快にした。その結果として、連日の継投が的を射た形となった。

今大会の傾向からも分かるように、打撃優先となっていくのが夏の大会の常である。だからこそ、ある程度力のある投手を何人もそろえておく必要がある。もちろん、多くの有力校では複数の力のある投手を用意していた。ただ、その一方で継投のタイミングの難しさも浮き彫りにされていった。

マウンドに集まった盛岡大附ナイン

特に継投のポイントとしては、監督と投手との信頼関係や、ボールを受けている捕手が感じていることなども重要となってくる。ただ、投手交代ということでいえば、そのことに対しての正解はない。現場の指導者たちは、地区大会から継続してさまざまなシチュエーションを経験してきている。そのうえでタイミングをはかっていくのだが、それでも結果がすべてという中で、失敗と映ってしまうこともなきにしもあらず…だろう。今大会でも、そういうシーンはいくつかあった。

ただ、これは私感ではあるのだが、「高校野球において、采配ミスはない」と思っている。だから、結果として失敗したと映ったとしても、それが指揮官の判断であればその限りではないということだと思っている。それもまた、高校野球なのだ。改めて、そんなことも思わせてくれた今大会であった。
《手束仁》

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