

ただ、少々理解しかねるのが小さいフレームサイズの異様に立ったシート角である。ジオメトリ表を見ると、500と520のシート角が76度と、まるでトライアスロンバイクのごとく立っている。純正のシートポストではポジションが全く出ないため、試乗ではLOOKのエルゴポストに差し替え、しかもめいっぱいまで引いてやっと望むサドル後退量が得られた。なぜスモールサイズのシート角だけここまで立っているのだろうか?個人的には、フロントセンターが多少短くなってもかまわないから、しっかりとサドル後退量が確保できるシート角を望みたい。また、最小サイズがトップ525mm (ホリゾンタル換算) というのも納得できない。「チビは諦めろって?」 と言いたくなる。
さらに重箱の隅を突けば弱点は出てくる。強靭すぎるほどのフレームに対してフォークがややソフトだ。前後方向にも左右方向にも若干弱い。フロントブレーキをガツンと握るとかすかなビビリが発生することがあったし、ダンシングでバイクを大きく振ると左右方向にしなる感じがある。ここはヘッド~フォーク剛性まで緻密に計算された高剛性バイクに僅かながら劣るポイントだろう。
とはいえ、全科目満点に近い超の付く優等生との生活はなんとなく不満を感じてしまうこともある。僕等にとってロードバイクなんていうものはどうしようもない道楽でしかないのだから、「偏ったものの魅力」 にあえてやられてみるのも、それはそれで正しい楽しみ方の一つ…というのは超個人的な意見。

欠点は指摘したが、常に不満を感じるほどではないし、乗っていれば気にならなくなる程度のものだろう。ハンドリングはシャープだが扱いやすく、振動は適度に伝わってくるが振動収束スピードはそれなりに速い。
なによりこの暴力的と言えるほど卓越した加速には、ペダルの一回転目から惚れてしまった。最近乗ったバイクの中で、最もスパルタンで、最高にスリリングだった。加速はほぼ無敵。生粋のアスリートである。カタチが同じF2以下とは全くの別物。
価格から判断すると、これのライバルとなるのは各ブランドの3rdグレード以下のはずであるが、F1SLは他ブランドのハイエンドラインとガチンコで喧嘩できる実力を持っている。それが30万円以下で買えるのだから、最強のレース機材である。驚きの大バーゲンである。僕が本格的なレース活動を目指す若手選手なら、代理店に 「コイツに乗らせて下さい」 と頭を下げに行く。20万円台という価格ながら、それほどの実力を持つ稀なフレームである。身銭を切って欲しくなるバイクは意外と少ないが、これは本気で欲しくなった。
僕がもし585ウルトラを持っていなかったら、おそらく我慢できずに、このF1 SLを一本注文していたと思う。最小サイズのトップチューブがもう5mmだけ短く、さらにシート角がもう1.5度だけ寝ていたなら、「585とF1SLに囲まれて過激なロードバイクライフを送るのも悪くはないはずだよな」 と自分に言い聞かせながら、メーカーに在庫確認の電話を入れていただろう。よく走るフレームは、どうしようもなく魅力的だ。
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
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しかし、いくらここで僕がこのF1SLを大絶賛しても、コルナゴやピナレロやタイムやルックやデローザやライトスピードや…いちいち挙げていればキリがないが…それらのブランド好きは、この地味だがトップレベルの性能を持つ、しかしどこか垢抜けずどこまでも質実剛健なバイクには、おそらく見向きもしないだろう。シャネルやルイ・ヴィトンの革の質や耐久性や収納力をしっかりと見極めて買う人は、いまやほとんどいない。
華やかで煌びやかな欧米ハイエンドの中でこれに乗っているあなたは、友人から羨まれることはないかもしれない。言われたとしても 「フェルト?へぇ、いいね」 くらいのものだろう。それでいい。このフェルトF1SL、ルックスは大人しいが中身は天まで突き抜けている。これぞ 「羊の皮を被った狼」 だ。コンバット・ロードバイクは、こうでなくてはいけない。これなら他の超高性能フレーム達に後塵をたっぷりと浴びさせることができる。
「寝言はコイツに乗ってから言いやがれふざけんなバカ野郎」。
高級ブランドに跨って自慢気な友人達に、それくらいは言いたくなるというものだ。
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しかし、この原稿を書いているまさにその最中、2011モデルとして新しいFシリーズが発表された (筆の進みが遅いと時々こういうことが起こる)。実車を見ることができたのは先行デビューした下位モデルのF5のみであり、現在行われているツール・ド・フランスでも現行F1SLがガーミンチームの機材として活躍しているので、Fシリーズ全てがモデルチェンジを終えるまではもう少し時間を要するのかもしれない。しかしF1もそのうちにF5と同様、BB30、上下異径ヘッドなど最新スペックを盛り込んだ、いかにもよく走りそうな 「正しく新しいロードバイク」 になるはずだ。製法はフルモノコックとなり、素材もさらにいいものになり、さらに軽くなり、おそらく完成度は飛躍的に高まり、雰囲気も垢抜けるのだろう。
しかし、だからといってこの2010年式F1SLを 「時代遅れの野蛮なマシン」 と嘲笑うことは僕には出来ない。確かに古典的かもしれないが、純粋さに賭けたこの鋭い一台は、「ロードバイクの真実」 を知る最後の世代となるかもしれない本当にスーパーなロードバイクだったのだ。
僕は新生フェルト・F1の走りをとても楽しみにしているが、そこにもF1SLのような 「やんちゃな味付け」 を残しておいて欲しいと願う。しかし、時代の流れを考えると難しいことかもしれない。
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