【THE REAL】川崎フロンターレ・奈良竜樹が覚える武者震い…どん底を味わわされた苦労人の逆襲 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】川崎フロンターレ・奈良竜樹が覚える武者震い…どん底を味わわされた苦労人の逆襲

オピニオン コラム

奈良竜樹
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11日間で3度も経験できた理想のサイクル


キックオフ前には武者震いに近い思いに駆られる。

試合がはじまればアドレナリンがどんどん分泌され、相手の攻撃を食い止めるたびに全身を快感が駆け抜け、勝利の瞬間にはガッツポーズとともに雄叫びをあげる。

理想的なサイクルを、11日間で実に3度も経験できた。心技体が最高のハーモニーを奏ではじめていることを、川崎フロンターレの若きセンターバック、23歳の奈良竜樹ははっきりと感じている。

「個人のことはシーズンが終わった後にゆっくり考えたいですけど、負けると厳しくなる試合でチームとして確実に勝ち点3を取れて、そのなかで僕自身もしっかりと90分間出場して、戦えていることは必ず次につながると思っています」

昨シーズンの二冠王者にして、今シーズンも首位に立つ鹿島アントラーズと対峙した13日の明治安田生命J1リーグ第22節を、後半27分までに3ゴールを奪うほぼ完ぺきな試合展開で制した。

19日の同第23節ではユース時代を含めて6年間在籍し、プロとしての礎を築いてもらったことへの感謝の思いをいまなお忘れない古巣・北海道コンサドーレ札幌から、2度目の対戦にして感慨深い初勝利をあげた。

そして、23日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の準々決勝。日本勢同士の激突となった浦和レッズとの第1戦を3‐1で先勝したフロンターレは、クラブ史上で初めてとなるベスト4進出へ王手をかけた。

闘志あふれるプレーでチームを鼓舞
(c) Getty Images

3試合が行われた舞台は、くしくもすべてホームの等々力陸上競技場だった。合計で6万人を超えるファンやサポーターが詰めかけた通称「等々力劇場」で、覚悟と責任を貫いてプレーすることができた。

「みんな守備でも頑張ってくれたし、あれだけ前で体を張ってくれたら、後ろの選手は軽いプレーができない。そういう相乗効果というか、チーム全員で高め合いながら戦うことができた」


昨シーズンに2度も味わわされた左足骨折の悪夢


コンサドーレからFC東京へ期限付き移籍した2015シーズンをへて、昨シーズンから完全移籍でフロンターレへ加入。ファーストステージ開幕戦から、センターバックして先発フル出場を果たした。

リオデジャネイロ五輪への出場を決めていた、U‐23日本代表でも指定席をゲット。順風満帆に映った新たな挑戦の軌跡はしかし、5月14日のヴィッセル神戸戦で突然の終焉を余儀なくされた。

試合中の接触プレーで負った、左足腓骨の骨折で4年に一度のヒノキ舞台に立つ夢を断念せざるをえなかった。復帰へ秒読み態勢に入った10月上旬の練習で同じ個所を骨折し、残されたシーズンも棒に振った。

最初の悪夢に見舞われても、闘志は萎えなかった。リオデジャネイロの舞台で戦った、遠藤航(浦和レッズ)や浅野拓磨(シュツットガルト)らがすでに招集されていたハリルジャパンへ照準を切り替えた。

「オリンピックに出られず、世界を感じるチャンスを逃してしまった分、早くA代表に選ばれたい。僕にはもうそこしかないし、リオデジャネイロ世代からもすでに何人かが選ばれているので、もうそんなに遠い目標でもない。そのためにも、フロンターレで結果を残し続けないといけない」

フロンターレでの飛躍を誓う
(c) Getty Images

だからこそ、2度目の悪夢は精神的にもこたえた。フロンターレが進出したJリーグチャンピオンシップ準決勝や、今年元日の天皇杯決勝をスタンドから観戦している自分が、むしょうに腹立たしく思えた。

「去年は熱くなれるような試合に出られなかった。そういう舞台を経験できなかったことが悔しかったし、チームの一員として、最後は負けてしまったことも本当に悔しかったので」

チャンピオンシップ準決勝も天皇杯決勝も、苦杯をなめさせられた相手はともにアントラーズだった。今夏の快勝劇で、少しだけ溜飲を下げることができた。


鹿島アントラーズ戦で見せた巧みな計算


180センチ、77キロとセンターバックとしてはやや小柄ながら、空中戦には絶対の自信をもつ。フィジカルの強さを含めて武闘派のイメージを抱きやすい一方で、試合中には緻密な計算を働かせてもいる。

アントラーズ戦の前半20分すぎには、ピッチ上で両チームがにらみ合う一触即発の状況が生まれている。アントラーズが自陣深くからクリアしたボールが、右タッチラインを割ろうとした直後だった。

ボールを見送ろうとしている奈良との距離を、FW金崎夢生が猛然と詰める。最後は飛びかかられ、空中でひざ蹴りを見舞われるかたちになる。ラインの外でもんどり打つ奈良は、苦悶の表情を浮かべていた。

「あれは試合を熱くするために、チームをちょっと活気づける意味でパフォーマンス的な部分もあったというか。僕がああならなくてもみんな気持ちが入って戦っていたし、熱い試合になっていましたけどね」

さぞかし激痛だったのかと思いきや、快勝の余韻が残る試合後の取材エリアで意外な舞台裏を明かしてくれた。映像を見直してみると、激突する直前に血気盛んな性格で知られる金崎の表情をチラリと見ている。

飛びかかられる、と判断したのだろう。ならば極力痛まない体勢で食らい、味方の怒りを引き出すことでチーム全体を鼓舞し、あわよくば金崎にイエローカードをもらわせようと思考回路を切り替えた。

細部にもこだわる。アントラーズ、コンサドーレ、レッズにすべてゴールを、それも残り15分を切ってから許した結果に納得できない。失点した直後に見せていた、何とも悔しそうな表情が印象的でもあった。

「後ろの選手にとって重要なのは、試合が終わったときにゼロで抑えていることなので。それが僕たちの仕事だし、完遂できなかったことはもったいないというか。あそこまで頑張ったのだから、最後までゼロのままでいかないと」


フロンターレ悲願の初タイトル獲得へ


奈良が特に反省したのが、1‐2と追い上げられたレッズ戦での失点だ。ACLの決勝トーナメントはホーム&アウェイ方式で行われ、2試合の合計スコアで勝敗を決める。

合計が並んだ場合は、アウェイゴールが多いチームが勝利する。もし2‐1のままなら、埼玉スタジアムで9月13日に行われる第2戦で0‐1で敗れれば、準決勝にはレッズが進むことになる。

だからこそ、キャプテンのFW小林悠が後半41分に決めた3点目は、第2戦の試合運びを楽にした点でも価値がある。1点差にされてからは重圧も感じていただけに、奈良は感謝の思いを忘れない。

「本音を言えば、後ろとしてはリスクを負いたくないと思っていた。ウチの3点目と相手の2点目とを、天秤にかけづらくなっていたというか。その意味でも相手の隙を突き、3点目を取ってくれた攻撃陣に本当に感謝したい」

レッズ戦での失点を悔やむ
(c) Getty Images

ACLだけではない。今後は昨シーズンの奈良が経験できなかったビッグマッチが待つ。首位のアントラーズに勝ち点4差の3位につけているJ1は、勝ち点の取りこぼしがもう許されない。

決勝トーナメントから登場するYBCルヴァンカップは、30日と9月3日の準々決勝でFC東京と対峙。ベスト16進出を決めている天皇杯では、9月20日に清水エスパルスとの4回戦に臨む。

「久々に鳥肌が立ち、奮い立たされるような試合に出られて、そのうえで勝てたことはレベルアップにつながる。今シーズンも一時期は試合に出られなかったけど、こうやってチャンスをもらっているなかで監督の信頼も感じている。ここまで行き着いた過程に対しては僕自身、誇れるものだと思っている」

見つめるのは豊穣の秋。どん底からはい上がってきた男は、逆境になるほど燃え盛る闘志を胸中に宿らせながら、悲願の初タイトル獲得を目指すフロンターレの最終ラインで異彩を放ち続ける。
《藤江直人》

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