スポーツ庁はこの目標の実現に向け、「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」を昨年10月に発表。2019年度以降のラストスパート期には、「『メダル獲得の最大化』の考えのもと、支援を柔軟かつ大胆に重点化。」と示しています。
目下の重要課題として、スポーツ庁はメダル獲得のための取り組みが目立ちやすくなりがちです。そのため「オリンピックが終わった後って、スポーツ庁は何するの?」という疑問が浮かびます。
そこでスポーツ庁の鈴木大地長官に聞いてみることにしました。かつて水泳選手として活躍した鈴木長官は1988年ソウル五輪に出場。競泳男子100m背泳ぎで金メダルを獲得しています。スポーツ庁が創設されると初代長官に就任しました。
東京五輪が終わったらスポーツ庁は何するのでしょうか?(聞き手はCYCLE編集部・大日方航)
前回の【スポーツ庁 鈴木大地長官に聞く】:スポーツで社会は変わるの?
---:2020年の東京オリンピックが終わったあと、スポーツ庁はどういった役割を担っていくのでしょうか?
鈴木大地長官(以下、鈴木長官):スポーツ庁には7課あって、その中のひとつがオリンピック・パラリンピック課です。この課は2020年度までです。その他の6課は継続します。オリンピック・パラリンピックでメダルを獲るためにスポーツ庁が存在するわけではないのです。一部に過ぎない。
学校の保健体育の授業をどうしていくか、部活動をどうしていくか、国民の健康増進のためにどうしようか、スポーツ外交と呼ばれるスポーツを通じた国際協力・交流はどうしようか、スポーツビジネスやスポーツによる地域の活性化など、やることはたくさんあります。
なかなか皆さんには伝わりにくい部分ではありますが、スポーツ・インテグリティ(高潔性・健全性)の確保や、ガバナンスの強化も重要です。各競技団体、プロリーグやチームにもいろいろな課題があり、いい報告もあれば、「え?」と思うような報告もある。それらへの対処だったり、これからの対策であったり。クリーンでフェアなスポーツの推進も大事な仕事です。本当にさまざまなことをやっています。
少しずつSNS(ツイッターとFacebookを運用)やメディアを通じて、スポーツ庁も認知されてきたと感じています。当初は「スポーツ庁ですけど」と職員が電話をすると、「えっ?」と必ず聞き返されたと聞いていますが、最近は「あぁ、スポーツ庁ね」と認識してもらえるようになったということです。
◇鈴木長官が国際水泳連盟理事に就任へ◇
— スポーツ庁 (@sports_JSA) 2017年7月25日
7月22日、鈴木スポーツ庁長官(日本水泳連盟名誉顧問)は、アジア水泳連盟の推薦により、国際水泳連盟(FINA)の理事に就任することがFINA総会で承認されましたhttps://t.co/jHDB83OTy5 #スポーツ庁 #水泳 pic.twitter.com/FtmLhdGQdK
---:東京オリンピックを迎えるにあたり、ハード面だけではなくソフト面のレガシーに関しては?
鈴木長官:いろいろあると思います。(日本で開催される)2019年のラグビーワールドカップ(W杯)、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは色んな文化や言葉を持つ人が日本に来るわけじゃないですか。「世界っていろんな人がいるんだな」と感じると思います。我々はスポーツによる「共生社会の実現」を掲げていますが、「色んな人がいていいんだ」という社会が実現する第一歩になるのではないかと。
それから一流選手のパフォーマンスを見る。そのことが人々の心を動かすのではないかと思うのです。我々は日本の強化指定選手への支援を行い、メダルを獲得してもらいたいわけですが、それをなぜやっているかというと、単にメダルの数を増やしたいということではなく、そこに心を動かされる国民が大勢いるからです。
感動したり、いきがいをもらったり。レベルは違うけれど自分も明日から体を動かしてみようかなとスポーツの実施率が上がり、健康な人たちが増える。そういうことが一番のレガシーだと思っています。
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---:世の中の人たちに多様性の認識を深めるということと、スポーツから得られるエネルギーで心と体を動かすということですね。多くのボランティアの方も関わってきます。人の流れ、これからの働き方にも波風を起こせるイベントになるのではないかと思うのですが、その点については?
鈴木長官:少子化になり、労働人口をどう確保するかというのが大きな問題になると思いますが、外国の方がボランティアに来て「日本っていい国だな」と興味を持って、そのまま住み続けてもらうようなこともあるかもしれない。
あとはスポーツ人材を育てていく努力も大事だと思います。自国開催のラグビーW杯やオリンピック・パラリンピック、さらに(2021年に関西各地域で開催される)ワールドマスターズゲームズが行われるこの5年で、いい意味でも悪い意味でも、もまれて活性化していくのではないかと思います。
経営能力があってスポーツが好きという人はいます。しかし彼らにとっては、どうやって(スポーツ業界に)入っていったらいいのかわからない。我々は『スポーツ団体のタコツボ化』と言っていますが、競技団体出身者が肩を並べてしまう傾向があるスポーツ業界を、色んな人たちが入れるスペースを空けておかなければならないと思います。
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次回の【スポーツ庁 鈴木大地長官に聞く】:今の時代にスポーツは必要?
●鈴木大地(すずき だいち)
1967年3月10日生まれ、千葉県習志野市出身。元水泳選手。スポーツ庁初代長官。1988年ソウル五輪男子100m背泳ぎで金メダルを獲得。当時、スタートからしばらくもぐったままで水中を進む「バサロ泳法」が話題になる。1993年順天堂大学大学院体育学研究科コーチ学専攻修了。2003年9月から世界オリンピアンズ協会理事を3期に渡り務め、2013年4月より日本オリンピアンズ協会会長に就任。同年6月から日本水泳連盟会長を3年間兼任した。2015年10月より現職。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事も務める。2017年7月に国際水泳連盟(FINA)理事に就任することがFINA総会で承認された。