東洋大学所属のアマチュアボクサーは男子ボクシング日本代表としてロンドン五輪ミドル級のリングに立ち、頂点に駆け上がって金メダルを手に入れる。その後は同大職員を経て、プロボクサーに転向。2013年8月25日に初勝利を挙げて以来、一段一段プロの階段を登ってきた。12名と対戦し、無敗でついに世界への扉にたどり着いた。
村田は5月20日にWBA世界ミドル級王座決定戦に挑む。空位となっているWBA世界ミドル級レギュラー王者をかけて、WBA同級1位のアッサン・エンダム(フランス)と対決する。
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2016年は4試合を行い、最長でも4回TKOで決着をつけてきた。だが今回のエンダムは“タフさ”がウリだけあって、そう簡単にはいかないだろう。最終ラウンドまでもつれ込む展開に警戒しながら、村田は「もう勝てればいいです」と腹を決める。
帝拳プロモーションの浜田剛史代表は4月3日の記者会見で、「人生で一番大事な試合と思っています。人生をかけた試合になるんじゃないか」と話していた。世界タイトルマッチはふたつの側面を持った大一番になるが、村田は落ち着いている。
「世界タイトルというとゴールみたいに思うじゃないですか。でもここがゴールではなくて、タイトルを獲れば次のステップに向かうスタートになるわけですよね。でもボクシングの面白いところで、スタートとエンディングが両方あるわけですよ、そこに行ってみると。もし負けてダメな試合であったときはサポートがなくなって、そのときは試合ができません。でも勝てばまたスタートになる」
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試合が終わってみないことには「景色は見えてこない」としながらも、少しだけ先を思い描く。
「目標としているものはもっともっと、と(上が)ある。それで相手にいい形で勝てば『スゲェな、あいつをラスベガスで観たいな』ってなると思います。あいつとこいつが試合したら面白いな、とビッグマネーのファイトになったりする。そういう風になっていけるような試合がしたいというのはありますけど、そんな簡単な相手じゃない。そこは現実を見ながらやりたいですね」
勝負の世界の厳しさは村田も承知だ。だが、「アマチュアの時にやめなくてよかった」と思っている。「プロの世界、色んなボクシングの世界を見ることができるというのは、あの時点でやめていたら多分見れなかった景色だと思います。そういった意味で、いちボクシングが好きな人間としてここまでやってこれていることに対してうれしく思っています」と記者会見後、報道陣に囲まれた際に表情をゆるめていた。
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22年前の1995年12月19日。日本人として初めて世界ミドル級に挑んだ竹原慎二氏は、ホルヘ・カストロ(アルゼンチン)を下してWBA世界ミドル級チャンピオンを獲得した。以降も数名の日本人が世界ミドル級にチャレンジしているが、王者の前に散っている。
日本人にとって難関の世界ミドル級。これを制することで村田にとって新たなスタートが始まる。期待は高まるが、本人はやはり冷静だ。
「もしかしたらエンディングになるかもしれないし。それは本当そうですよ、みんなそう思ってボクシングしているわけですから。だから面白いと思うんです。勝っても負けても次があるという試合なんか観ても面白くないじゃないですか。スタートなのかエンディングなのかわからない。それがボクシングの魅力です」
ロンドン五輪で日本に48年ぶりとなるボクシング金メダルを持ち帰った村田。20日には世界ミドル級王者となり、再び歴史に名を刻むのか。
村田諒太の未来を決めるゴングが、もうすぐ鳴る。
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(了)
●村田諒太(むらた りょうた)
1986年1月12日生まれ、奈良市出身。帝拳プロモーション所属。2012年にロンドン五輪ボクシングミドル級で金メダルを獲得して脚光を浴びる。アマチュア時代の成績は137戦118勝89KO・RSC19敗。2013年8月にプロデビュー。以降、2016年12月のブルーノ・サンドバル戦まで12戦全勝(9KO)。
取材協力:ナイキジャパン