沖縄では走り込みを中心とした高強度のインターバルでスタミナを鍛えた。90mほどのダッシュや1km走を繰り返している。3月は都内のジムでフィットネスバイクに乗り限界まで脚を回し、「心肺機能系でいうとあれほどキツいものはないんじゃないですか」と苦笑いしていた。
ただ30秒間漕ぎ続けるだけの動作だが、ペダルに大きな負荷をかけたときの辛さは経験した者にしかわからない。負荷をかけると自転車で急な坂道を上るときのようにペダルが重くなる。
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そのトレーニングは常に取り入れているわけではない。目的をちゃんと理解できるのなら行うが、「意味があるのかないのか、いつも論議されることなんです」と教えてくれた。
ボクシングの試合は1ラウンドが3分で、世界タイトルマッチは最大12ラウンドまで戦う。1ラウンドで3分間相手と対峙したら1分間のインターバルが入る。
「3分、1分の中にもアクションがあるんです。そのアクションを起こした時の回復(が重要)だと思うので、そういった意味での必要性を感じています。だから3分、1分にとらわれずに練習していこうというのが今、心肺機能強化でやっているところ。そういった意味で新しい取り組みです」
この日は30秒のキツい時間をトータルで5分ほど味わっていた。ハンドルの両端を握りしめ、歯を食いしばってもがく姿はまるでゴール勝負をする競輪選手のようであり、村田の「あれほどキツいものはない」という言葉にも納得がいく。
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■気持ちにブレーキはかけない
トレーニング後に村田はジムの片隅にあったボールを手に取り、壁に向かって投げ始めた。肩が固まってきたらキャッチボールコーナーのある自宅近くの公園に出向き、柔軟性を保つために投げることがあるという。ボクサーもそういうトレーニングをするのかと珍しく思い、観察していると「他のボクサーはあまりやらないと思います」とボールを投げる肩越しにこちらを見る。
「自分はこのトレーニング方法があっていますが、他のボクサーは違った方法で肩の柔軟性を上げるトレーニングをしていると思います」
二児の父でもある村田。5歳の長男とキャッチボールして休日を楽しむ姿が目に浮かんだが、「まだですね。子供は運動神経が悪いというか、ビビりなんですよ」と返された。ジャングルジムの上まで登っていけないという長男について話すとき、村田の目はプロボクサーから父親のものに変わっていた。
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「こういうのって人生に似てるなあって思って。ジャングルジムは1段目登るのも2段目登るのも同じ作業でしょう。でも3段目になると怖くてできない。でも、お前できるんだよって。同じことをするだけなんだから。それって気持ちがブレーキをかけているだけで、そういうことがすごく多いんじゃないかと思ってます、人生において。気持ちがブレーキをかけて本当はできることをやっていない。怖がって…」
5歳の子どもに「気持ちがブレーキをかけている」と伝えて理解させることは難しいかもしれない。だがプロボクサーが対戦相手と向き合ったとき、気持ちにブレーキがかかっていたら結果は目に見えている。恐怖心があっても、ブレーキをかけたら前に進めない。乗り越えることで新しい人生が開けてくる。
「やってみたら実はできるのにね」
アッサン・エンダム(フランス)との決戦まで1カ月を切った。世界タイトルマッチに向けて、村田は突き進んでいく。
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(R4へ続く)
●村田諒太(むらた りょうた)
1986年1月12日生まれ、奈良市出身。帝拳プロモーション所属。2012年にロンドン五輪ボクシングミドル級で金メダルを獲得して脚光を浴びる。アマチュア時代の成績は137戦118勝89KO・RSC19敗。2013年8月にプロデビュー。以降、2016年12月のブルーノ・サンドバル戦まで12戦全勝(9KO)。