【THE REAL】ハリルジャパンの新星・久保裕也が眩い輝きを放つ理由…急成長を遂げた舞台裏を探る | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】ハリルジャパンの新星・久保裕也が眩い輝きを放つ理由…急成長を遂げた舞台裏を探る

オピニオン コラム
ハリルジャパンの新星・久保裕也 参考画像
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  • ハリルジャパンの新星・久保裕也 参考画像(2017年3月28日)
  • ハリルジャパンの新星・久保裕也 参考画像(2017年3月23日)
■不慣れなポジションで放った大きな存在感

いい意味で大きく期待を裏切った。非常時のオプション要員から、必要不可欠な主力への鮮やかなる昇華。天性の得点感覚と類希な順応力の高さで、23歳の久保裕也は日本代表に確固たる居場所を築いた。

久保が初めてハリルジャパンに招集されたのは、オマーン代表との国際親善試合、サウジアラビア代表とのワールドカップ・アジア最終予選に臨んだ昨年11月の国際Aマッチデーウイークだった。

当時所属していたヤングボーイズ(スイス)で、ツートップの一角としてゴールを量産していた久保を、日本代表を率いるバヒド・ハリルホジッチ監督は「セカンドストライカー」として位置づけていた。

「我々は普段スリートップだが、久保が入ることでアイデアが増える。ひとつのオーガナイズが上手くいかなかったとき、もしかしたらフォートップになるかもしれない。2人のサイドアタッカーに加えて、真ん中にも2人のフォワードを置く形だ。久保はそのときのセカンドストライカーとして面白いと考えている」

おそらくは岡崎慎司(レスター・シティー)か、あるいは大迫勇也(ケルン)と組ませて、その周囲を衛星のように動き回るプレーをイメージしていたのだろう。指揮官はこうもつけ加えていた。

「点を取りにいく場面でのソリューションのひとつとなる。クラブと同じように、ディフェンスラインの背後やニアサイドへ走っていく動きを期待している。それ以外の役割は、少し難しいのではないか」

果たして、後半26分から途中出場して4年越しの日本代表デビューを飾ったオマーン戦、堂々の初先発を勝ち取ったサウジアラビア戦で、久保は「難しい」とされたスリートップの右としてプレーしている。

そして、まだ記憶に新しいUAE(アラブ首長国連邦)、タイ両代表に連勝した3月のワールドカップ・アジア最終でも同じポジションで先発。2ゴールに加えて3つのアシストも決める、群を抜く存在感を放った。

抜群の存在感を見せた
(c) Getty Images


■歴代の監督たちがほれ込んだ潜在能力の高さ

不慣れなはずのスリートップの右に瞬く間に順応して、日本代表が2戦であげた6ゴールのうち5つにまで絡んでみせる。八面六臂の大活躍ぶりに、ハリルホジッチ監督も前言を撤回して賛辞を惜しまなかった。

「久保はこの2試合で質の高さ、決定力の高さを見せてくれた。若くしてこのようなプレーができる選手を発見できたので、さらなる進化を期待したいし、成長を続けていってほしい」

今年1月に移籍したヘント(ベルギー)でも8試合で5ゴールをマークして、一気に信頼を勝ち取った。ヤングボーイズでの半年間を含めて、今シーズンの公式戦において実に17ゴールをあげている。

久保が頭角を現したのは、京都サンガU‐18に所属しながら、2種登録選手としてトップチームの主力を務めた2011シーズンだった。横浜F・マリノスを撃破した天皇杯準決勝は、いまでも語り草になっている。

2‐2のまま突入した延長戦の前半途中に投入された久保は、PK戦の気配が漂いはじめた後半11分に決勝ゴールをゲット。さらに駒井善成(現浦和レッズ)のダメ押し弾までアシストしてみせた。

当時のサンガはJ2の所属。J1の名門マリノスを破る痛快無比なジャイアントキリングの主役となった18歳の高校3年生を、日本代表コーチも務めた大木武監督(現FC岐阜監督)は手放しで絶賛していた。

「ゴールの匂いをかぎ取れるフォワード。いままで見てきた日本人選手で、シュートが一番上手い」

敗れはしたものの、FC東京との天皇杯決勝でも久保はゴールを決めた。当時の日本代表を率いていたアルベルト・ザッケローニ監督は、新星にひと目惚れしたかのように招集している。

2012年2月のアイスランド代表との国際親善試合では出番なしに終わったが、いま現在の覚醒を導く潜在能力の高さを感じ取っていたのだろう。イタリア人指揮官は久保に対してこう言及していた。

「すべてのポジションを器用にこなすことのできる、近代的なフォワードだ」

類まれな潜在能力が開花
(c) Getty Images


■五輪出場を逃した悔しさを糧に変えて

器用だからこそスリートップの右でプレーする感覚をすぐに理解して、そのうえで自分の色、つまり決定力の高さを出せる。実際、昨年11月は戸惑う部分があったと久保自身も認めている。

「(スリートップの)右というのはチームであまりやったことがないので、その意味では日本代表でやれることで自分のプレーの幅をもっと広げられる。自分のプレーが上手くいけば、最後は必ずゴールがついてくると思っているので、ゴールの前段階のプレーをしっかりやっていくことが大事ですね。

昨年11月に出場したときは、いい形で終われなかった。あのときに比べたら少しやれる、フィットしてきている、という実感はわいてきましたけど。でも、もっともっとやれると思う。崩しの部分でもパス回しの部分でももっとよくなるはずだし、改善はいろいろあると思っています」

たとえようのない悔しさを飛躍への糧に変えて、今シーズンに臨んだ。代表に選出されていた昨夏のリオデジャネイロ五輪を、ヤングボーイズに故障者が続出したこともあって開幕直前で辞退した。

国際オリンピック委員会(IOC)の管轄となる五輪は、各国協会に選手を拘束できる権利はない。ヤングボーイズと日本サッカー協会の話し合いの末に出された結論を、黙って受け入れるしかなかった。

「まあ、自分ではどうしようもなかったので。残念でしたけど、気持ちを切り替えるしかなかった。僕にはもうここしかなかったので、逆の意味ではすぐに切り替えることができました」

久保の言う「ここ」とは、もちろんA代表のこと。世代別の代表の集大成となる、23歳以下のワールドカップとなる五輪出場を逃したなかで、次なるターゲットは年齢制限のないA代表の戦いしかない。

3年半在籍したヤングボーイズからヘントへ移籍したことで、ステップアップへ向けてモチベーションがみなぎった。A代表でもデビューするなど、一気に飛躍する条件は特にメンタル面で整っていた。

ヘントでゴールを量産
(c) Getty Images


■古き良き日本人をほうふつとさせる姿

長く大黒柱を担ってきた本田圭佑(ACミラン)をベンチに座らせ、スリートップの右における序列を逆転させた3月シリーズ。成長への階段を駆けあがる姿に、DF長友佑都(インテル・ミラノ)も目を細めた。

「久保を見ていると、本当に面白い。昔の自分というか、同じ年代だったときの自分を思い出しますよね。(本田)圭佑もそうだったけど、僕も怖いもの知らずで、前へ、前へという感じだったので」

もっとも、眩い輝きを放つパフォーマンスとは対照的に、ピッチを離れた久保は寡黙な立ち居振る舞いを貫く。ギラギラ感があると絶賛した長友の言葉も、おそらくは嬉しいはずだが、淡々とスルーした。

「それは僕の判断するところじゃないので、わからないですけど。長友さんの意見だと思うので」

いまは上位6チームによるプレーオフに進出したヘントをリーグ優勝に導くことと、タイ代表戦後にハリルホジッチ監督から言い渡された宿題の克服で頭がいっぱいのはずだ。

「監督からは『まだまだフィジカルが足りない』と言われました。自分としても、もっとコンディションをあげられると思っているので」

守備面でのタスクも多いスリートップの右は、タッチライン際を何度も上下動しなければならない。チームの規律を守ったうえで、ゴールという結果も出す。目指す頂が高く、険しいからこそ闘志もわいてくる。

「目に見える結果が出たことはすごくよかったと思っていますけど、それでも『これからかな』という感じですね。僕らの(リオデジャネイロ五輪)世代がもっと出て来ないといけないし、その意味でもっと活躍しなきゃいけない立場なので。上の世代を含めて、刺激を与えられるように頑張っていきたい」

浮かれる素振りはいっさいない。黙々と自分の仕事に徹する姿がほうふつとさせるのは、古き良き時代の日本人となるだろうか。次に日本代表が招集される6月へ向けて、久保はヨーロッパの地で成長を続ける。
《藤江直人》

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