フィクションであればピークを迎えた瞬間に幕を下ろし、輝かしい時を永遠に保存しておける。物語には終わりがあるからだ。当たり前すぎて見過ごされがちだが、終わりがあるというのは本当に驚くべきことなのだ。
しかし、残念ながら現実の世界には都合の良い終わりなど来ず、ピークが過ぎたあとの時間も生きねばならない。そして、たいていそっちのほうが長い。
岡崎慎司の所属するレスター・シティが2月23日、クラウディオ・ラニエリ監督の解任を発表した。
奇跡の優勝と言われたイングランド・プレミアリーグ初制覇から1年と経たたないうちに、成績不振により指揮官はクラブを去ることになった。
Club statement: #lcfc and Claudio Ranieri part company: https://t.co/C5qnSVxDgU pic.twitter.com/VqlHy1I6Ut
— Leicester City (@LCFC) 2017年2月23日
■夢物語の続きは過酷な現実だった
2015年夏にレスターの監督に就任したラニエリ氏。当時のチームは昇格初年度だった前年になんとかプレミアリーグ残留を決め、この年も目標は残留と言われていた。優勝争いなど期待されるチームではなかったが、リーグ戦が始まってみると上位陣のつまずきもあり、レスターは首位を走り続けた。
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ヴァーディへのマークは厳しさを増した
(c) Getty Images
11試合連続ゴールのプレミアリーグ新記録を樹立したジェイミー・ヴァーディ、右サイドで抜群のテクニックを披露したリヤド・マフレズ、リーグ屈指のボール奪取数でレスターの快進撃を支えたエンゴロ・カンテなど個性派ぞろいのチームは大きな注目を集めた。加えて前線から激しくプレスを掛け続けた岡崎に象徴されるように、全員がひとつの目標に向かって献身的に走り、ファイトするチームだった。
大きな栄光をつかんだレスターだったが、新シーズンは開幕から苦しみ続けている。シーズン前にカンテがチェルシーへ移籍。ヴァーディとマフレズは残留したが昨シーズンの活躍でマークが厳しくなり、得点源を抑えられたことによるゴール数減少は如何ともし難かった。
プレミアリーグ第25節が終わった段階で5勝6分け14敗。勝ち点21の17位は降格圏の18位ハル・シティと勝ち点1ポイント差だ。レスターは公式サイト上で声明を発表し、「彼がレスター・シティの歴史上で最も成功した監督であることは間違いない。しかし、現在のプレミアリーグでの結果は我々の立場を脅威に晒すものであり、不本意ではあるがリーダーシップの変更が必要と判断した」とラニエリ氏の解任を明かしている。
■残り13試合で残留を決めるための交代
アイヤワット・スリヴァッダナプラバ副会長は、「キング・パワーがレスターを買収してからの7年間で、最も難しい決断だった」とコメント。一方でクラブの長期的な利益を求める義務があるともした。
「クラウディオは卓越したクオリティをもたらしてくれました。彼が豊かなマネージメント力、モチベーション管理、思慮深いアプローチをもたらしてくれると信じていました。彼の暖かな人柄や魅力、カリスマ性はクラブへの認識を変え、世界規模で知名度を高めてくれました。我々は彼が成し遂げてくれたことに永遠に感謝し続けます」
「昨シーズンの驚異的な成功の再現は決して望んでいませんでした。プレミアリーグ残留は開幕時における、最優先にして唯一の目標でした。しかし、我々は実際いま残留争いに直面しており、残り13試合がもたらす機会を最大限にするためにも変化が必要だと判断したのです」
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クラブの認識を変えたラニエリ監督
(c) Getty Images
■解任を決めた時期に疑問の声が続々
奇跡の優勝から一転しての電撃解任にファンからは、「仕方ない成績ではあるがタイミングがおかしい。もっと前かチャンピオンズリーグで敗退してからのほうがよかった」「今年はラニエリと心中する覚悟だと思ってた」「お前は何を言ってるんだ?」「みっともない。今回の決定にはうんざりさせられた」と否定的だったり、解任するにしても時期が中途半端という声が多い。
こうした疑問を持つのはファンだけではない。レスターのOBで元イングランド代表FWゲーリー・リネカー氏はツイッターを更新して、「いま彼を解任するのは不可解で許されず、馬鹿げていて悲しいものだ」とコメントした。
After all that Claudio Ranieri has done for Leicester City, to sack him now is inexplicable, unforgivable and gut-wrenchingly sad.
— Gary Lineker (@GaryLineker) 2017年2月23日
ラニエリ監督の故郷イタリアでもASローマのルチアーノ・スパレッティ監督が、今回の解任劇にコメントしている。
「(レスターには)ラニエリへの理解が足りないし感謝の念もない。彼はチームに変化を生み、昨シーズンのタイトルをもたらした男だ。クラブは誰かを責めるのではなく運営側の責任を認め、そのままのメンバーで戦うべきだった」
電撃解任に驚愕したスパレッティ監督だが、最後は「サッカー界では様々なことが起こるし、私も同じような経験をしたことがある」と笑顔で締めくくった。
当面はコーチが指揮を執るレスター。荒療治でチームは上向いてくるか。