山小屋で食事をとっていると、ちょっとした既視感を覚えた。一面に広がる湿原と、周りを囲む山々、点々と存在する山小屋、村のように山小屋が密集している見晴、そして、そこで休む人々。
(RPGだ!)
私は既視感の正体を見破った。
プレイヤーが冒険者となり、迫り来るモンスターを剣や魔法で倒しながら、世界を冒険するゲーム。尾瀬ヶ原の風景が、かつて熱中したRPGのプレイ画面を呼び起こしたのだ。
■尾瀬ヶ原の冒険
尾瀬ヶ原というフィールドを歩く冒険者(登山者)たち。今回のクエストは、フィールド上に潜むさまざまなモンスター(熊やイモリなど)から逃げながら(武器は持っていないので)、ダンジョンに隠された秘宝(今回は三条の滝の景色)を見つけ出し、制限時間内に(帰りのバスの時間がある)ゴールするというもの(ちなみに、BGMは『ファイナルファンタジー III』の「悠久の風」)。
さしずめ私たちは、秘宝を見つけたはいいが、自分たちのレベルに不釣り合いなクエストを選んだので、残存HPが残りわずかな状態で、どうにか近隣の村にたどり着いたところ…といった具合か。
山小屋で充分に体を休めて、体力全快で帰路を歩きたいところだが、タイミリミットが近づいていた。体をむしばむ毒(疲労、筋肉痛)に耐えながら、ゴールとなる鳩待峠を目指す。傷ついた冒険者たちは、クエストクリア後に得られる王様からのご褒美(温泉と食事…あと睡眠)を夢見て、木道をひたすら歩き続けるのであった…。
頭の中でファンタジーにふけりながら歩いていたら、目の前の至仏山にかかっていた雲が少しずつ晴れていくのが見て取れた。

歩いているうちに、至仏山の雲は次第に晴れていった
歩いて来た道を振り返ると、燧ヶ岳の雲も晴れてきている。

後ろを向けば、燧ヶ岳。こちらは最後までてっぺんが見えなかった
帰るまでに、てっぺんが見たいなぁと思っていると、山の鼻直前で至仏山の頂の雲がきれいになくなり、山の全容を見ることができた。
悪天候の中でスタートした尾瀬ヶ原の冒険の最後に、ちょっとしたファンタジーが待っていた。

ゴール間近で、至仏山の全容が見えた