1997年に報道写真家として活動を始めたプリティ氏の撮るスポーツ写真は、その枠を超えてアートとも思える不思議な魅力を発している。2000年シドニー五輪から夏季、冬季あわせて6度の五輪を経験。リオデジャネイロ五輪では最先端の技術を用いてアスリートを撮影中だ。
プリティ氏はリオデジャネイロ五輪を目前に控えた7月中旬に来日。スポーツ写真にかける想いを聞いた。
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ゲッティ イメージズの専属フォトグラファーを務めるアダム・プリティ氏
---:スポーツ写真を撮る上で、何を大事にしていますか?
アダム・プリティ氏(以下、敬称略):背景を大事にします。アスリートそのものだけを撮るのではなく、まず背景を考え、ライティングを考え、感情とかいろんな層を組み合わせて写真を作り上げます。ただ単に何でも撮影するのではなく、会場に行って下調べをして、“こういうバックで、こういう写真を撮りたい”と構想を練ります。例えば水中で撮る時でも光の位置などを考え、カメラを設置しています。
絵を描く時と一緒です。キャンバスが真っ白、美しいキャンバスでないとアスリートも映えないので、それが一番大切です。
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世界報道写真展2012 スポーツの部組写真2位を受賞したプリティ氏の作品 (c) Adam Prerty/ Getty Images
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世界報道写真展2012 スポーツの部組写真2位を受賞したプリティ氏の作品 (c) Adam Prerty/ Getty Images
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世界報道写真展2012 スポーツの部組写真2位を受賞したプリティ氏の作品 (c) Adam Prerty/ Getty Images
---:競技ごとにイメージを固めてから撮影するのですか?
プリティ:場合によっては会場を視察できないこともあり、臨機応変に対応しなければいけないこともあります。瞬間的にこういう風に撮ろうと決められることも大切ですが、事前に計画を練れるのであればそうしたいですね。
---:撮影が難しいと感じた競技は?
プリティ:サッカーは難しいです。サッカーの普通の写真はいくらでも撮れますが、優れた写真はなかなか撮れない。ワールドカップを全部を撮影したとしても1枚も撮れないこともある。いくつもの瞬間を撮らなければならないので難しい。会場が広すぎて、何がどこで起きるかわからない。構想を練って、ここからカメラを構えて、こういうショットを撮ろうと思っても、そこでそのアクションが起きるかどうかはわからない。
競泳などはスタートがあってゴールがある。その間のどこかでしか動きがありませんが、サッカーのグラウンドでは幅広いところでいろんな動きがある。また離れていたらその瞬間を捉えることはできない。そういう要素があってすごく難しい。
自転車競技なら限られた空間、ゴール間近になるとガッツポーズをするなど事前にわかります。それを見越して構えていればいい写真が撮れると予想がつきますが、サッカーはその予想ができない。また、その場にいてラッキーだったという運も絡んできます。
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アダム・プリティ氏の作品 (c) Adam Prerty/ Getty Images
---:サッカーは常にボールを追っているのですか?
プリティ:バックグラウンドやストーリーがあったりするので、必ずしもいい瞬間がボールに絡んでいるわけではありません。ワールドカップで頭突きした瞬間(※)などはボールと関係なかったですよね?
そういう瞬間を捉えたカメラマンはラッキーです。ゴールのシュートよりも頭突きの瞬間を捉えたことで、違いがでてきます。
※:2006年FIFAワールドカップで当時フランス代表のジネディーヌ・ジダン(現レアル・マドリード監督)がイタリア代表のマルコ・マテラッツィに頭突き。ジダンは退場になった。
---:ボールだけではなく、周りをよくみておくことも大切なんですね。
プリティ:何も起こらないこともあるじゃないですか。間が空くので、そうすると集中力が切れることもあるし、その瞬間を逃してしまうこともあります。一瞬、まばたきするだけで「あれ?終わっちゃったの?」という状況になりかねません。
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アダム・プリティ氏の作品 (c) Adam Prerty/ Getty Images
---:撮影していて楽しい競技は何ですか?
プリティ:プール関係、水が関係するものが好きです。競泳やダイビング。レースとしては(自転車競技の)ケイリンが面白いです。小競り合いや駆け引きがあったりする。必ずしも優秀だから勝てるわけでもない、頭脳戦みたいなところがね。
柔道やレスリングのように体を張ってする競技は感情も絡んできて、負けたという精神的なダメージだけではなく、体へのダメージも捉えることができるので撮りがいがあります。
---:撮影での失敗談や面白いエピソードはありますか?
プリティ:いい思い出しかないです(笑)。スポーツ写真というのはその瞬間を捉えられる確率が少なくて、いちいちそういうことを気にしていると次につながりません。だから、気にすることなくそれを土台に次はミスをしないようにするのですが、シドニー五輪でまだフィルムカメラを使っていた時のことです。
100m走のファイナルでスタート前に何枚か撮ってフィルムを交換したのですが、途中で話しかけられて、次のフィルムを入れ忘れていて…。1枚撮ってみたら音がおかしいのでフタを開けてみたら、フィルムが入っていなかった。あわてて入れて、何とか間に合いました。
捉えられなかった瞬間というのは数え切れないほどあります。すべてを捉えよういう努力はしますが、それは無理なので、ときどき逃すことはあります。しかし、そういうミスをした時に反省をしないようなら続ける意味がない。辞めるべきです。
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アダム・プリティ氏の作品 (c) Adam Prerty/ Getty Images
---:一瞬を切り取ることで大切にしていることは?
プリティ:その瞬間を捉えた時にライティングなどいろんな要素が組み込まれた上で、層が積み重なって写真は完成します。一番大事なのは、人が見た時に一瞬で「ああ、この写真ね」と納得するものではなく、二度見したくなるような、「今の写真はどうやって撮ったのだろう?」と対話ができるような、ストーリーが知りたくなるような写真に仕上げることを大事にしています。
---:一般人がスポーツを撮影する時に気をつけるといいことは何でしょう?
プリティ:カメラの使い方、特徴をしっかりつかんでおくと被写体に注目することができます。背景も大事、練習することも大事。また、情報収集をして腕を上げることをオススメします。
---:プリティさんにとって写真の魅力は何ですか?
プリティ:スポーツ写真はまるで人生を凝縮したものだと思うんです。感情も絡んでいますし、人間としての能力、技量、限りない才能を最大限いかす、その瞬間を自分の思った通りに捉えることができる。しかも被写体は世界有数のトップアスリートなので、ワクワクするし、何が撮れるかわからないところが次への向上心につながります。瞬間を捉える、その場にいられることだけでもワクワクする。それにお金ももらえるしね(笑)。
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●アダム・プリティ(Adam Pretty)
1998年ゲッティ イメージズ入社。スポーツ特有の躍動感にあふれる写真を撮影し、世界的にも高い評価を獲得。2011年の世界報道写真展スポーツストーリー部門第1位など受賞歴も多い。2007年からはスポーツ写真にとどまらず広告写真も手がけている。
●プリティ氏がリオデジャネイロ五輪に持ち込む機材
【カメラ】
キヤノン EOS-1D X Mark II
キヤノン EOS 5Ds R
【レンズ】
24mm、35mm、50mm、85mm prime lenses
11-24mm、24-70mm、70-200mm、400mm、1.4x convertor lenses