今回登ってきた吾妻小富士も、その変化の過程でできた山である。「小富士」という名の通り、小さな富士山のような姿をしたこの山は、小さいながらも大きな魅力の詰まった山であった。
■巨大な噴火口のまわりをぐるりと歩く
吾妻小富士の噴火口は、直径約450m。山に登り慣れていない人でも、1時間もあれば周囲をお鉢巡り(火口の周りをぐるりと歩く)ができる。火口の周りを歩くなんて、なかなかちょっとできない経験であろう。ぐるりと歩いている間に、景色はさまざまな姿に変化して、我々の目を楽しませてくれる。
火口の姿は、場所を変えれば見え方も変わる。浄土平からの登り口から見た火口は、空の下に大きな口がぽっかりと開いた姿が見える。これもこれで美しいのだが、反対側にまわり込めば一切経山の山並みとセットになって、よりいっそう美しい風景に変わる。
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火口
山の外側の景色も同じで、眼下に広がっていた森林帯と雲の海の景色が、反対側にまわり込めば火山活動で白くなった美しい山の姿に変わる。
たかだか1時間程度の散策だが、その景色の変化の多様さに、密度の濃さを感じるだろう。何時間もかけて登った山の頂から見る景色は、目に見える以上の美しさを感じるものだが、吾妻小富士に限って言えば、車を降りてから10分程度で見る景色が、想像以上の美しさを感じさせてくれる。
「輿馬(よば)を仮る者は足を労せずして千里を致す」という、素晴らしいことわざがある。筆者と同じく楽して山の美しい景色を見たい方は、ぜひ、吾妻小富士へ。