縦パスを受けたもうひとりのフォワード、アリ・マブフートがDF森重真人(FC東京)を振り切って日本ゴールへ迫る。カバーに入ったDF吉田麻也(サウサンプトン)の前でバランスを崩して倒れたように見えたが、UAEの隣国カタールの主審は吉田のファウルを取る。
ゴールまでの距離は約20m。ハリルの右足から放たれた強烈な弾道は壁の右上を超えて、守護神・西川周作(浦和レッズ)の両手を弾いてゴールへと吸い込まれていった。
後半9分にはペナルティーエリア内で、MFイスマイール・アルハマディを大島、酒井、MF香川真司(ボルシア・ドルトムント)の3人で囲みながら、必死に粘る相手に縦へ抜け出されてしまう。
とっさに大島が伸ばした右足に引っかかる形で、アルハマディが倒れ込む。故意にダイブしたようにも見えたが、レフェリーのジャッジは無情のPK。逆転を告げるハリルのチップキックが、左へ飛んだ西川をあざ笑うかのようにゆっくりとゴール中央へ吸い込まれていった。
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大島僚太(左) (c) Getty Images
後半30分にMF原口元気(ヘルタ・ベルリン)との交代でベンチに退いた大島は、失点に絡んだふたつのシーンを淡々とした口調で振り返っている。
「横パスをかっさわれそうになって、FKになって失点しましたし、PKの場面は(最後は)僕とシンジ君(香川)のふたりで行ったので、そこは何とか止めなければいけなかった。(PKという)結果が出てしまっているのでしょうがないと思いますし、その前の段階でしっかりと弾き出さなければいけなかったという思いの方が強いです」
■手倉森ジャパンからハリルジャパンへ
ハリルジャパンに招集されるのは、6月のキリンカップに続いて二度目。しかしながら、6大会連続のW杯出場をかけた公式戦でもある今回は、濃密な経験を168cm、64kgの体に刻み込んだ。
卓越したパスセンスと得点感覚で、手倉森ジャパンが3試合であげた7ゴールのうち5つに絡んだリオデジャネイロ五輪の戦いを終えてから2週間あまり。帰国直後に発症したインフルエンザの名残となる咳がまだ出るなかで、バヒド・ハリルホジッチ監督から檄を飛ばされた。
「もっと声を出せ!」
どちらかといえば寡黙で、プレーで味方を引っ張るタイプ。指揮官に自分の意見をぶつけることこそなかったが、胸中にはこんな思いを募らせながら直前合宿を消化していった。
「声を出すというのもいろいろあると思いますし、僕は試合中とか、そういうときに出せれば。ムードメーカーというのはやれる人がやって、その人が練習に集中できるようにするのが一番いいと思う」
もっとも、態度や口調にこそ表さなかったものの、日本代表における初陣で味わわされた違和感にも近い思いを、先輩選手たちに率直に伝えることで解消させたい、という欲求も頭をもたげてきている。
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