4年に一度のヒノキ舞台に立てるのは18人。ワールドカップよりも5人少ないうえ、「1993年1月1日以降の生まれ」という参加資格にとらわれない選手、いわゆるオーバーエイジも3人まで招集できる。
本来ならば6月10日は、日本オリンピック委員会(JOC)へ予備登録メンバー35人を提出する期限日だった。そのなかから18人に絞り込んでいく方針だったが、ケガ人を多く抱える状況が予定を一変させる。
■大舞台オリンピックでゴールをあげられる選手を
JOC側に確認をとったうえで、日本サッカー協会は派遣登録手続きを延期することを決定。ケガ人の復帰状況などを確認しながら、メダルを獲るためのベストの人選は誰なのかをぎりぎりまで見極めていく。
手倉森誠監督の方針は、あくまでも23歳以下の選手ありき。彼らを組み合わせながら、それでもチームに足りない部分をオーバーエイジ枠で招集する選手の実力と経験を加えることで補っていく。
オーバーエイジ候補は発表されていないが、メディアにはほぼ同じ顔触れが登場する。大久保嘉人(川崎フロンターレ)、興梠慎三(浦和レッズ)、大迫勇也(ケルン)とFW勢が多い状況が何を意味するのか。
5月11日にベストアメニティスタジアムで行われたガーナ代表戦後。3-0で快勝したにもかかわらず、手倉森監督はこんな言葉を残している。
「FWには前で収められる選手がほしい」
続いてフランス・トゥーロンで開催された国際大会に乗り込んだが、1勝3敗でグループリーグ敗退を喫した。4試合でわずか3ゴール。長く課題とされてきた、決定力不足がまたも顔をのぞかせた。
ボールをキープできる。そして、ゴールをあげられる。それらを満たすFWとして、オールマイティー型の興梠や大迫、J1で3年連続得点王を獲得している大久保の名前が挙がっているのだろう。
つまり、23歳以下のFW陣に対して、指揮官は物足りなさを感じていることになる。そうした状況を、チームの主軸を務めてきた浅野拓磨(サンフレッチェ広島)は真正面から受け止めている。
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浅野拓磨
「オーバーエイジのことは、実は考えていませんでした。オーバーエイジが使われても、あるいは使われなくても僕のやるべきことは変わらないし、もし使わなくても、この年代の競争はもともと激しくて、自分のもっているものをすべて出し切ってアピールしていかないと生き残っていけない。
自分は常に危機感をもってやっているので、その意味ではオーバーエイジが使われるから厳しくなる、という考え方は自分のなかにはありません。今日の試合でも満足せずに、できたことよりもできなかったことを考えながら、レベルアップしていかなきゃいけない」
こう語っていたのは前出のガーナ戦後。先発した浅野はゴールをあげることなく、後半開始から金森健志(アビスパ福岡)との交代でベンチへ下がっていた。
■アピールを続けたブルガリア戦
続くトゥーロン国際大会では3試合、計195分間プレーして1ゴール。不完全燃焼の思いを抱きながら、U-23イングランド代表とのグループリーグ最終戦を残して、浅野はU-23日本代表を離脱している。
フランスから急きょ向かった先は日本。バヒド・ハリルホジッチ監督に率いられるA代表にも招集された浅野は、キリンカップへ向けて愛知県内で始まった短期キャンプに合流した。
Jリーガーだけで臨んだ昨年8月の東アジアカップでA代表デビュー。得点も決めている浅野だったが、FW本田圭佑(ACミラン)をはじめとするヨーロッパ組と同じ時間を共有するのは今回が初めてだった。
そして、ブルガリア代表との準決勝(豊田スタジアム)、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表との決勝(市立吹田サッカースタジアム)に臨んだ5日間で、浅野は文字通り天国と地獄を経験する。
まずは天国。ブルガリア代表戦の後半14分からFW小林悠(川崎フロンターレ)に代わって投入された浅野は、終了間際に武器とするスピードを生かしたドリブル突破からPKを獲得する。ベンチのハリルホジッチ監督は、FW宇佐美貴史(ガンバ大阪)をキッカーに指名した。しかし、浅野はボールを手離すことなく、指揮官へ向けて無言のアピールを続けた。
真剣なまなざしの前に最後はハリルホジッチ監督が折れて、浅野は強烈な弾道をゴール右へ突き刺した。真のA代表であげるゴールこそが、リオデジャネイロの舞台で輝くために必要だと感じていたのだろう。
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ブルガリア戦
珍しく我を前面に押し出した一連の光景は、浅野が自信を失いかけていたことの裏返しとなる。サンフレッチェで「10」番を託された今シーズン。浅野は寄せられる期待と目の前の現実のギャップに苦しんできた。
ファーストステージを3試合残した時点で、出場は半分のわずか7試合、わずか215分間にとどまっている。ケガで戦列を離れること2度。昨シーズンに8を数えたゴールも1のまま増えていない。
【スピードスター・浅野拓磨が抱く捲土重来 続く】