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【THE REAL】ロアッソ熊本・巻誠一郎は走り続ける…大地震を乗り越え、被災地に笑顔を届けるために

オピニオン コラム
巻誠一郎 参考画像(2014年2月21日)
  • 巻誠一郎 参考画像(2014年2月21日)
■ジェフユナイテッドへの想い

いかに巻がジェフを愛していたかを、物語るエピソードがある。ジェフから事実上の戦力外を通告され、ロシアのアムカル・ペルミへ完全移籍を決意した2010年7月。巻は退団会見で涙ながらにこう語った。

「笑われるかもしれないが、このクラブ(ジェフ)は僕にとってマンU(マンチェスター・ユナイテッド)やバルセロナと同じ価値がある。また戻ってこられるように頑張りたい」

いまもリスペクトの念を抱くジェフ関係者やサポーターからは、地震からほどなくして14トンもの救援物資が送られてきた。復興への第一歩を記す一戦は、巻にとって恩返しとなる90分間でもあった。

スタメン発表で巻の名前がコールされると、ジェフサポーターで埋まったゴール裏から大きな拍手が沸き上がった。顔面を強打してうずくまっている間には、「マキコール」がスタジアム内に響いた。

試合は0‐2で負けた。運動量が落ちた後半に入って後手に回り始め、11分に先制を許した。それでも何とか踏ん張っていたが、29分にまさかの展開からダメ押しとなる2点目を喫してしまう。

味方からのパックパスを受けたゴールキーパーの畑実が、前方へフィードした直後だった。間合いを詰めてきたジェフのMF町田也真人にチャージされ、こぼれ球を押し込まれた。

厳しい言い方をすれば、チーム全体の士気を下げるボーンヘッド。畑も試合後に「町田が来ていることはわかっていたけど、判断が遅くなって試合を壊してしまった」と下を向きかけたと打ち明けている。


直後に巻の檄が飛んだ。選手たちを自陣の中央に集め、畑の肩を叩きながらこんな言葉を発している。

「下を向くな。オレらが助けるから。取り返せばいいんだ。前を向いてやろう」

後半25分にベンチに下がったMF岡本賢明に代わり、左腕にキャプテンマークを巻いていた巻が失点直後に抱いた偽らざる思いを明かす。

「畑は自分の家もなくなって、ずっと避難所で生活していて、誰よりも精神的にも肉体的にもすごく難しい準備のなかで、このゲームに挑んでいたのを僕ら選手は全員がわかっていたので。その畑が下を向くというのは、チーム全体が下を向くのと一緒。みんなそういう思いでしたし、試合中も試合が終わってからも誰も畑を責めていないし、何度も彼がゴールを守り、僕らを救ってくれた。そういう思いはみんなで共有できていたし、支え合いながら、助け合いながらプレーできたと思います」

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《藤江直人》

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