【小さな山旅】山の本の装丁とぐうたら休日 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【小さな山旅】山の本の装丁とぐうたら休日

オピニオン コラム
装丁山味(そうていざんまい)/小泉弘 山と渓谷社より
  • 装丁山味(そうていざんまい)/小泉弘 山と渓谷社より
  • 唯一知っていた、深田久弥の百名山本。
  • こんな感じで、山の本の装丁がずらり。その本を装丁した時のエピソードも面白い。
春一番、花粉の飛散、梅まつり(水戸)、高校・大学入試の合格発表……。春めいてきた。そう思わずには入られないニュースが、あちこちから聞こえてくる。

それでもまだまだ寒い日が続く。家の中とて、吐く息が白い(茨城県は関東の中では特に寒い)日だってあるくらいだ。そんな日は、布団の中から出るのが億劫である。ベッドの枕元には、昨年末に購入したiPad mini。読みかけの小説、借りてきた漫画。十分に休日を満喫できるツールが、どこそこに行かずとも半径30cm以内に揃っている。与えられた環境で、全力を尽くすのが筆者のモットーだ。これは、布団から出る訳にはいかない。

だがしかし、それでいいのか。せっかくの休日を、半径30cmで済ませては堕落そのものである。元気に外に繰り出し、山を歩き、自然と一体化して身も心も清らかになるべきではないか。そのように思って、布団を跳ね除け、登る山を探す。

適当に登る山を決め、ルートを調べ、ザックと山用の服を用意する。いざ、着替えをしようと寝巻きを脱いだ瞬間、凍てつくような寒さを感じた。いかん、こんな日に山なんぞに登ったら寒さで凍え死んでしまう(大袈裟)。
着替えをやめて、再び布団の中に潜り込む。
(山行、中止。zzz……)
身体を横たえ、春眠を貪り尽くす決断をしたその時、ベッドの近くに積まれた本の中に、気になるタイトルを見つけた。

■山の本の装丁
「装丁山味(そうていざんまい)」

面白そうだと購入したが、未読の本である。山に登らないにしても、せめて、山の本くらいは読もうと思い、頁をめくった。

著者はブックデザイナーの小泉弘さん。仕事でデザイン、趣味で山登りという生活を続けていく内に、山に関する本の装丁をデザインするようになった。その数、500冊以上。この本には、小泉さんが装丁を手がけた山の本と、その背景がつづられている。

頁をめくる度に現れる、山の本の装丁の写真。
そのほとんどが、聞いたこともない本ばかりである。

山の本がこんなにあるなんて。そもそも、登山愛好家には読者家や文筆家が多いらしい。
だが、小泉さんはそれらの人々に向けて装丁をしたことはないという。
「いつも読者としての自分が、この本はこうあってほしいと思う姿だけを求めて、その著者一人、あるいは担当編集者だけを口説き落とすように、ラブレターを書くつもりで装丁をしてきた」
その結果、多くの山と本を愛する人から受け入れられたという。意図せずして、良い結果が得られている訳だ。

冬と春の間の休日に、山に登るはずがベッドに潜り込んだまま一冊の本を読破した。そこには、一つの大きな山に登ったほどの充実があった(大きな山に登ったことはないけれど)。
《久米成佳》

編集部おすすめの記事

page top