【THE REAL】新天地・大宮アルディージャで輝く「10」番…走れる司令塔・岩上祐三が届ける恩返し 2ページ目 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】新天地・大宮アルディージャで輝く「10」番…走れる司令塔・岩上祐三が届ける恩返し

オピニオン コラム
岩上祐三(大宮アルディージャ公式サイトより)
  • 岩上祐三(大宮アルディージャ公式サイトより)
■まさかプロでつけるとは思わなかった

湘南ベルマーレ、松本山雅に続く3番目の所属チームは、背番号「10」を用意して岩上を迎え入れた。群馬・前橋商業高校時代は背負った経験があるが、5シーズン目を迎えたプロ人生では初めてだった。

岩上の武器はJリーガーのなかで五本指に入る走力とスタミナだけではない。右足から放たれるキックの精度は極めて高く、松本山雅ではセットプレーのキッカーも託された。得意とするロングスローの射程距離は、実に40mに達する。

1シーズンでJ1の舞台に帰ってきた、新生アルディージャの心臓を担ってほしい――。エースナンバーに込められた期待の大きさを感じるからこそ、岩上は武者震いを隠せなかった。

「まさかプロでつけるとは思わなかった。いい経験といったら怒られるかもしないですけど、『10』番を背負った以上は責任があるので、僕の強みである走力を生かしながらチームに貢献することでその責任を果たして、プレッシャーをはねのけていけたらと思う」

松本山雅では基本的に2列目でプレーした。翻ってアルディージャでは攻守のバランスを司るボランチ。守備との兼ね合いもあったのか。昨シーズンは平均18.21を数えた岩上のスプリントは14回にとどまった。

それでも、走行距離は12.634km。アルディージャ、FC東京の両チームを通じて1位を記録した点に、アルディージャを率いる渋谷洋樹監督はさらに高いレベルを要求する。

「得点シーンに象徴されるような、何回もスプリントして後方から出ていくハードワークの部分を、もっと私が求めればよかったのかなと。ボランチの位置から何度も前へ出ていくのは、彼自身も危ないと思っているはずだけれども、私としてはできると思う。彼のいい部分を、もっと出してあげたいですね」

指揮官の言葉を伝え聞いた岩上は「マジで?」と驚き、続けて「走りすぎるとポジション的にバラバラになるし」と苦笑いした。要は走力をある程度自重しながら、両チームでトップの数字をたたき出していたわけだ。

■名前を覚えてもらえば嬉しい

今シーズンも引き続き松本山雅の指揮を執る反町監督に、昨年6月に取材したときのこと。チーム史上で初めて日の丸を背負う可能性がある選手として、2008年北京五輪で日本を率いた指揮官は、当時所属していたふたりの名前を挙げた。

ひとりは独特のリズムをもつドリブラーで、U‐22日本代表にも招集されていたMF前田直輝(現横浜F・マリノス)。もうひとりは、ベルマーレ時代にも指導した経験のある愛弟子の岩上だ。

岩上自身、年代別の日本代表とは無縁だった。東海大学時代に全日本と関東の両大学選抜に名前を連ねたのが最高位。それでも反町監督もとで心身ともに鍛え抜かれ、引き続きJ1で戦うチャンスを得たいま、視線はおのずと上のレベルへと向けられる。

「J1でプレーしている以上は、常にそこ(A代表)は目指しているところなので。いまは必死についていっている感じですけど、自分のプレーの引き出しを増やす意味でも、今回の移籍をプラスに考えたい。大宮の選手はみんな本当に上手いし、アキさんは特にね。なので、とりあえずボールを預けます」

5日には柏レイソルとのホーム開幕戦が待つ。サッカー専用であるNACK5スタジアムはスタンドとの距離が近い。再び拡声器を渡される、つまり再びヒーローになったときには、圧倒的な臨場感に身を委ねる光景が生まれる。

「まあ一回(失敗を)経験したので、次に何かうまくしゃべれるかどうか。とりあえず開幕戦に勝つことができて、正直ホッとしている。ファンやサポーターの方々に名前を覚えてもらえば嬉しいですけど、今日は点を取っただけ。まだまだ細かいミスがあるし、これから先もピッチに立ち続けないと意味がない。チームのために、もっとしっかりとしたプレーをしていきたい」

新天地アルディージャで充実した日々を送っている岩上だが、ひとつだけ心残りがある。ホームだけでなくアウェーのスタンドをチームカラーの緑に染め、常に熱いエールを送って鼓舞してくれた松本山雅のファンやサポーターに、直接挨拶ができなかったからだ。

「仕方のないことなのかもしれないけど、だからこそ大宮でのプレーを通して、しっかりと結果を残していきたい。山雅の試合が関東であるときには前泊してきてもらって、(大宮の試合を)観にきてくれたら」

アルディージャでのプレーを介して松本山雅のファンやサポーターへ恩を返したいと誓う岩上は、レイソル戦へすぐに気持ちを切り替えた。一夜明けた6日には、松本山雅が敵地ニッパツ三ツ沢球技場で横浜FC戦に臨む。

無邪気な笑顔を浮かべながら岩上が思い描いた、松本山雅のファンやサポーターによる1泊2日での応援ツアーが早くも可能になった。
《藤江直人》

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