【小さな山旅】山椒魚と亀虫…茨城県・真弓山(1) | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【小さな山旅】山椒魚と亀虫…茨城県・真弓山(1)

オピニオン コラム
真弓神社の鳥居のそばにあった看板。トウキョウサンショウウオという言葉に心惹かれる
  • 真弓神社の鳥居のそばにあった看板。トウキョウサンショウウオという言葉に心惹かれる
  • 白い道。雪ではなく、この山の岩が白いのだ
  • 御手洗にあった小さな池
  • いかにもサンショウウオが棲んでいそうな雰囲気だ
  • 鳥居の先を歩くと、見晴台がある
  • 見晴台。ここからの眺めもいい。風神山~真弓山は見晴らしの良いスポットが多い
前回登った風神山から続く尾根道を歩いていくと、真弓神社の鳥居にたどり着いた。

その鳥居の傍らで「御手洗(みたらし)※トウキョウサンショウウオ生息地」と書かれた看板を見た時に、井伏鱒二の小説『山椒魚』の冒頭文が思い浮かんだ。

「山椒魚は悲しんだ」

はて、なぜ山椒魚は悲しんだのだろう。その先の文章を思い出そうとしてみたが、どうしても思い出せない。変わりに、次の一文を思い出した。

「メロスは激怒した」

こちらは、太宰治の『走れメロス』の冒頭文だ。はて、なぜ山椒魚の冒頭文から走れメロスの冒頭文を連想したのだろう。

この理由はすぐに分かった。伊坂幸太郎の『重力ピエロ』の中で、両方の冒頭文が登場する場面があったからだ。

●トウキョウサンショウウオの生息地へ
看板に書かれた矢印の方向へ歩いていくと、いかにも山椒魚がいそうな場所にたどり着いた。うっそうと生い茂ったシダ植物は、真冬だというのに鮮やかな緑色のままだ。

茂みの中に、ぽつんと小さな水たまりがある。ここに山椒魚がいるのだろうか。目を凝らして水たまりを見たが、山椒魚の姿はない。

まあ、山椒魚などそうやすやすとお目にかかれるものではないのだろうから、いないならいないで仕方ない。今来た道を引き返す最中に、今度は『パビリオン山椒魚』という映画を思い出した。

やはりその内容が思い出せない。オダギリジョーと香椎由宇が出演していたのは覚えている。監督が冨永昌敬であったのも覚えている。だが、肝心の中身が思い出せない。

代わりに思い出したのが、冨永監督の『亀虫』という映画だった。この映画が、かつて大好きな映画であったことも思い出した。たしかナレーションが印象的な映画だった。だが、かなり昔に観た映画なので、やはり内容はうろ覚えである。

家に帰るなり『亀虫』のDVDを鑑賞した。緑色の寝袋を着込んで歩く男の後ろ姿は、まさに亀虫そのものだった。その姿を見て、重要なことを思い出した。筆者は、井伏鱒二の『山椒魚』を読んだことがなかったのである。どうりで冒頭文に続く文章が思い出せない訳だ。

さぞかし、井伏鱒二も悲しんだことであろう。
《久米成佳》

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