群馬県の水上(みなかみ)の温泉街をロードバイクで出発し、JR上越線と平行する国道を北上して徐々に高度を上げていく。湯檜曽(ゆびそ)の温泉街を過ぎると、しばらくして土合(どあい)駅があり、それから先は本格的な山間部。見上げる先の稜線は群馬と新潟の県境だ。
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土合駅の下りホームは地下深くにあり、462段の階段を自転車を持って上らないといけない
走るのは幹線道路だが、三国山脈に突き当たったところで車両は行き止まりなので、交通量は多くない。上り坂の斜度も国道だけにそれほどキツいことはない。こうして水上から10kmほどで谷川岳ロープウェイの乗り場に到着する。
ロードバイクならさらにそのまま奥地に進むことができる。夏場にここを訪れた際には、地元の管理人に「自転車で来る人はどれくらいいるんですか?」と聞いてみたが、「夏でも日に5人くらいかな」という。このルートを自転車が走れるのを知る人はそれほど多くないのだ。
ここから一ノ倉沢までは距離3.3kmだ。最初は100mほど激坂が続くが、ほどなくゆるやかな上りになる。利根川の源流となる深い谷を眼下にながめながら、緩やかな上り坂をさらに突き進むと、いきなり写真で見たことのある荘厳なスペクタクルが目の前に広がった。これが一ノ倉沢だ。
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谷川岳
たいてい、ここまで来るのは徒歩のハイカー。徒歩では片道1時間かかるが、自転車なら20分前後。帰りはなだらかな下りなので15分でロープウェイまで戻れてしまう。じつのところ一ノ倉沢はそれほど奥地でもなく、サイクリストからすれば山岳として厳しいものではない。それでいて10月中旬には紅葉が楽しめ、しかも自転車だからまったく自由に散策できる。
雪渓が目撃できるような本格的山岳でありながら、標高は一ノ倉沢で850mしかない。信州などの本格的な山岳と比べたら空気の希薄さも感じないのである。つまり意外とお手軽。夏場はマイカー規制されるがその目的は、排ガスによる自然環境の破壊防止とともに、歩行者などの安全確保にある。
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コース途中の湯檜曽で見つけた足湯
自然環境に優しい自転車はありがたくも規制対象から外されたのだが、歩行者と衝突するような事故があってはならない。ましてやここは登山者やハイカーにとっての聖地でもあるので、彼らの存在を充分にリスペクトして走行するように心がけ、楽しいサイクリングを満喫したい。