【THE REAL】本田圭佑が節目のゴールを忘れた理由…ハリルジャパンの現状に抱く危機感と未来への野心 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】本田圭佑が節目のゴールを忘れた理由…ハリルジャパンの現状に抱く危機感と未来への野心

オピニオン コラム
本田圭佑(2015年9月3日)
  • 本田圭佑(2015年9月3日)
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足掛け7年にわたって積み重ね、大台に到達させた通算ゴール数を忘れさせてしまうほど、日本代表のFW本田圭佑(ACミラン)は不完全燃焼の思いを募らせていた。

埼玉スタジアムにカンボジア代表を迎えた、3日のワールドカップ・アジア2次予選の第2戦。黄金の左足がまばゆい輝きを放ったのは、両チームともに無得点で迎えた前半28分だった。

右サイドからMF香川真司(ボルシア・ドルトムント)が上げたクロスを、カンボジアの選手がはね返す。こぼれ球に反応したMF山口蛍(セレッソ大阪)が、ワンタッチで右へはたいた直後だった。

右足でパスを受けた本田が体勢を立て直し、利き足の左を一閃できる位置にボールを置く。ペナルティーエリアの外から見舞った無回転の強烈な弾道は相手ゴールキーパーの両手を弾き、ゴールネットの上へ突き刺さった。

■本田圭佑、国際Aマッチ初ゴールから6年3カ月あまり

2009年5月27日に長居スタジアムで行われたチリ代表との国際親善試合。岡田武史監督に率いられる日本代表で3度目の先発を果たした本田は、後半アディショナルタイムにダメ押しの4点目となる国際Aマッチ初ゴールを左足で叩き込んでいる。

以来、積み重ねてきたゴールは「30」に達した。自分よりも上を見れば、不世出のストライカー釜本邦茂、キングこと三浦知良(横浜FC)、同じ1986年生まれの岡崎慎司(レスター)、現在は日本サッカー協会の専務理事を務める原博実の4人しかいない。

試合後の取材エリア。節目のゴールを決めた感想を聞かれた本田は、意外にも素っ気なかった。

「全然覚えていないんですよ。いろいろとやることが多くて(過去を)振り返るタイプじゃないんですけど、そう聞かれたら、ちょっとずつ積み重ねてきたんだなと思いますね。正直、入ると思わなかったので、とりあえずホッとしました」

■格下カンボジア相手にシュート数34対1

コースはゴールキーパーの真正面。本田から笑顔を奪い、左胸の日の丸にキスするパフォーマンスだけにとどめた理由は、お粗末なセービングにも助けられたゴールだったことに加えてもうひとつある。

FIFAランキング180位のカンボジアをボールポゼッションで73.9%、シュート数で34対1と文字通り圧倒した。それでもわずか3ゴールに終わった拙攻の数々が、試合後も脳裏から離れなかった。

「結果と内容は別物なので。結果に関しては当然、勝ったことは評価されるべきだと思う。どんな相手だろうと簡単に勝つことができないのはわかっていたので。一方でもう少し点が取れたと思うし、点の取り方に関してもチャンスの作り方に関しても、まだまだなというのが試合を終えてみての率直な感想ですね」

6月16日に行われたシンガポール代表との第1戦。相手キーパーの神懸かり的なセーブもあってスコアレスドローに終わり、同じ埼玉スタジアムを埋めたサポーターからブーイングを浴びた。

■「決定力不足」だけでは済まない課題を内包

幾度となく指摘されてきた「決定力不足」を露呈した一戦から約2カ月半。今回も見ている側に物足りなさを募らせた理由は、しかし、別の次元にあると本田は考えている。

「チャンスの作り方があまり上手くないんですよね。決定的にフリーになるシーンが、それほど多くなかった。前半の(香川)真司くらいかな。もっと上手く崩して、ああいう形を作れたと思うんでね」

本田が指摘したのは、1対0で迎えた前半42分。FW岡崎慎司(レスター)とFW武藤嘉紀(マインツ)のコンビネーションで左サイドを崩し、武藤がゴール前へグラウンダーのクロスを送ったシーンだ。

ファーサイドからフリーで詰めてきたのは香川。試合後に「慎重にいきすぎて固くなってしまった」と振り返ったように、ボールを右足に当て損なう信じられないミスでゴールへの期待はため息に変わった。

しかし、本田の言葉通りに「決定機」の数をカウントしてみると、実は決して多くなかったことがわかる。

左右から何本も放り込まれたクロスは、なかなか味方の頭に合わない。カンボジア戦のテーマだったミドルシュートは、本田と後半5分に決めたDF吉田麻也(サウサンプトン)の2点目を除いては、悲しいかな、ゴールの枠にすら飛ばない。

クロスもミドルシュートも、いずれもバヒド・ハリルホジッチ監督から口を酸っぱくして叩き込まれてきた攻め方だ。人数をかけてゴール前を固める相手を崩すセオリーであることは間違ないが、一方で本田は指揮官とは別の方法論も思い描いていた。

■本田の考える「臨機応変」…テンポのコントロール

カンボジア戦へ向けた短期合宿が始まった8月31日。本田はこんな言葉を残している。

「シンガポール戦のようなケースも起こりえる。必ずしも監督の言っていることが当てはまるケースにはならない。経験のある選手が臨機応変に対応しないと」

3月の就任以来、ハリルホジッチ監督は縦に速いサッカーを標榜してきた。イタリアでプレーする本田と国際電話で話し合いをもつこともあり、そのたびにスピードアップの必要性を訴えてきた。

ならば、カンボジア戦前に飛び出した「臨機応変」にはどんな意味が込められていたのか。本田はスピードアップを「先を見すえた要求」と受け止めた上で、こう続けた。

「スピード感をあえて落とさなければいけない場面も訪れる」

これがメディアでは「オレ流」と報じられたわけだが、実際には意味がやや異なると、本田はカンボジア戦後にあらためて説明している。

「たぶん速いテンポの定義が異なると思うんですけど、テンポというのはどこに向かっていくのか、ということも非常に重要になってくる。僕が言っていた『ゆっくりしていいんじゃないか』というのは、今日みたいな試合は縦にスペースがないわけですよ。そういう場合には、ペナルティーエリアのちょっと前、バイタルエリアのところの両サイドのスペースを上手く使いながらサイドに振る、あるいは中へ入れてからもう一度外へ出すやり方をもうちょっとやれれば、という意味だったんですけどね」

実際、カンボジア戦でいつものように2列目の右を主戦場とした本田は、ペナルティーエリアの右角に広がるスペースで緩急を駆使した。タメを作って右サイドバックの酒井宏樹(ハノーヴァー)の攻撃参加を促し、味方とのワンツーで中へ素早く切れ込んではチャンスを作り出そうとした。

カンボジアが作る壁を崩すには相手を左右に広げる、つまり守備の網の目を広げることが、もっとも理にかなったセオリーとなる。

そのためには左右が連動することが求められる。しかし、右の本田と酒井宏のコンビネーションに対して、左の武藤は中央へ切れ込んでから自らシュートを放ちたいという意欲がプレーに色濃く反映されていた。

必然的に、左サイドバックの長友佑都(インテル)の動きともかみ合わない。後半開始直後から香川が左サイドに配置転換されたのも、左右のバランスの悪さを矯正するための措置だった。

■本田の「ひねる」プレー

一本調子に陥らず、緩急で相手を前後左右に翻弄する方法を、本田は「ひねる」と表現してきた。カンボジア戦で決めたミドルシュートも「ひねる」の一貫だったという。静から動へ。強烈な一撃を見舞うことで、ゴールキーパーやディフェンダーが弾いたこぼれ球を押し込む狙いがあった。

「今日みたいな相手に対して点を取りたいオーラが出たときには、日本代表は一点張りになりつつあるんですね。クロスを上げられるときに上げる、前へ行けそうなときには行っておこうと。でも、行けそうだから行くというマインドでプレーしたら、まず引っかかるんですね。それが現実のものになったのがシンガポール戦。もっと我慢して、もっと相手を左右に揺さぶって、最終的には完全に崩すことができないチームではないと僕は思っているので」

代表で初ゴールを決めた6年前は、飢えた狼という表現がぴったりだった。胸中に抱く野心を隠すことなく、大黒柱だった司令塔の中村俊輔に真っ向から挑戦状を叩きつけたこともあった。

ワールドカップ南アフリカ大会で通算5点目と6点目を決め、実力でエースの座をゲット。大会後に発足したザックジャパンでは「自分の家」と言い切るトップ下で、17個のゴールを上積みした。

ハリルジャパンにおける2点目、通算では29ゴール目を決めたイラク代表との国際親善試合の2日後。6月13日に29歳の誕生日を迎えた。

■時の流れ、勝利への執着

「時の流れの速さが怖いので、1秒たりとも無駄にできない。若いころに感じた成り上がり精神を捨てることなく、何がなんでも勝つんだという思いを向上させていきたい。いまは自分が認識している自分のよさを超えようとしている段階。何でもやってみようという感じだし、新しいよさができればと思っています」

成長することに対する、貪欲なまでの情熱の延長線上にいまがある。だからこそ、節目のゴールにもカンボジア戦の内容にも本田は笑顔を見せなかった。

「高いものを求めているのであれば、カンボジア戦は全然到達していないということ。日本代表はもっと高い目標を目指さなきゃいけないチームですよね。だからこそ、勝ったときにこそ厳しく、なぜ3点しか取れなかったのかと見ていくべきだと思っている」

シニシャ・ミハイロヴィッチ監督体制となったACミランでも、トップ下のレギュラーは確約されていない。何よりも低迷が続くかつての名門は、本田の言葉を借りれば「それほど相手を攻め込むチームではない」という戦いをいまでは強いられている。

同じミラノを本拠地する長友のインテルも然り。岡崎、武藤、吉田、酒井宏、キャプテンの長谷部誠(フランクフルト)もそれぞれのリーグで中位以下のクラブでプレーしている。攻守両面で相手を圧倒するサッカーを標榜しているのは、香川が所属するドルトムントくらいだろうか。

■代表での考え方と、クラブでの考え方

「普段やっているサッカーとはまったく違う考え方で、日本代表の戦いには臨まないといけない。これはサッカーをやっている人しかわからないと思うんですけど、そんなに簡単に切り替えられるものではないんですね。パッと集まってコミュニケーションは取るものの、いざ大事な試合になると、何もかもが上手くいくわけがないことはわかっている。難しさという部分の話をすれば、こうなるでしょうね」

決して言い訳を展開しているわけではない。本田は常に自らにプレッシャーをかけるような言葉を残し、さまざまな壁を乗り越えてくための糧に変えてきた。ビッグマウスを連発してきたのはそのためだ。

今回でいえば舞台をイランの首都テヘランに移し、8日に行われるアフガニスタン代表との第3戦以降への戦いへ向けられた決意表明と考えていい。

実際、本田は最後にこんな言葉を紡いでいる。

「でも、やはりもっと理想を追究していかなければいけない」

いわばゴールなきチャレンジ。若いころに周囲へまき散らされたギラギラしたオーラは、ベクトルを体の内側へ向けたエネルギーに形を変えて、ベテランの域に達した本田を静かに燃えあがらせている。
《藤江直人》

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