これから登る朝日岳の姿がどれかわからぬまま、峰の茶屋跡に到着する。ここで一休みしていると、一人の素敵な山ガールが現れた。彼女は本格的な山の服装。しかも、オシャレで美しい。
◆山での出会いを楽しむ
せっかく、山でこのような美しい女性と出会えたのだから、何かしら痕跡を残したい。そうだ、山の初心者のフリをして(いや、実際にその通りなのだが)、朝日岳の謎(どの山が朝日岳なのか)を解こうではないか。
「すみません」と筆者は素敵な山ガールに声をかけた。
「朝日岳って、どの山なんですか?」
恥ずかしがることなく、恥ずかしい質問をする。普通、そのくらいは前もって調べてくるべきなのだろうが。
「あの山ですよ」
素敵な山ガールは、朝日岳に向けて指を差す。その指先の方向を見ると、あの険しい岩山があるではないか。
「え? あのゴツゴツした山ですか? 手前の山ではなくて?」
耳と目を疑い、確認のためにもう一度質問をした。
「そうですよ。あの山ですよ」
山ガールの指差す山は、間違いなく険しい岩山を指していた。
筆者と、一緒にいた山のお供は顔を見合わせた。まさか、先ほど「人が登る山ではない」と言い表した山にこれから登ることになろうとは。
(コースを変更しようかな)
少々弱気になるも、せっかく遠征をしたのに一山だけでは物足りない気もする。行けるところまで行ってみようと気を取り直し、朝日岳に向けて歩みを再開した。
◆いざ、「ニセ穂高」へ!
峰の茶屋跡から、剣が峰の周囲をぐるりと歩いていくと、ゴツゴツした岩場が現れる。岩場の道には、ご丁寧に鎖が設置されていた。
鎖や岩に手をかけて、3本足、4本足の体勢になって登っていく。登っていると遠くから見たほどの険しさは感じない。それでも、一歩踏み外せば奈落の底まで落ちてしまいそうな崖や、ぐらついた浮石などがあり、気が抜けない。登りながら、下りの時のことを考えた。この道を下るのか、と思うと、登っている段階でげんなりさせられた。
頂上まで登りきると、今までに見たことがない絶景が広がっていた。標高1,896mから見る世界。すぐ傍に見える悠然とした茶臼岳の姿。今まで登ってきた険しい岩の道。朝日の肩から清水平に向けて延びる美しい稜線。遠くに見える名も知らぬ高山たち。高い山から見る景色は、どれもこれもが新鮮で、素晴らしく見えた。
さて、素晴らしい景色を堪能した後には、問題の下りが待っていた。うわぁ、ひえぇ、といちいち悲鳴をあげながら、おずおずと下っていく。急な下りが落ち着くと、景色を眺める余裕が生まれた。大きな茶色の岩が、あちこちに散らばるこの景色を見て、筆者はふと、ある風景を思い出す。
(これはまるで、ビッグサ●ダーマ●ンテンではないか!)
夢の国を彷彿させる景色。その乗り物に乗って、万歳した日を思い出したのであった。
御嶽山噴火による多くの被災者の皆様に対し、この場をお借りして心からご冥福をお祈りいたします。
《久米成佳》
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