
史上最高の男が22年のキャリアに幕をおろした。
ニューイングランド・ペイトリオッツとタンパベイ・バッカニアーズで活躍したクオーターバック(QB)トム・ブレイディが、日本時間2日に自身のインスタグラムで公式に引退を発表した。GOAT(Greatest Of All Time)の愛称で知られたレジェンドの幕引きには、敵味方問わず、各方面から称賛の言葉が向けられた。
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■ドラフト6順目全体199番目指名から始まった伝説
プロ入り当時は無名の存在だった。
貧相な体型で強肩でも機動力もないため、2000年のドラフトではペイトリオッツから6巡目(全体199位)の指名。平均キャリアが4年にも満たない過酷なNFLの世界では大きな期待はかけられていなかった。しかし、2001年シーズン序盤にエースQBが故障で戦列を離れ先発の座を手にすると、そこから伝説が始まった。
そのシーズンの第36回スーパーボウルを制覇してMVPにも輝き、そこから瞬く間にスターダムの階段を駆け上がっていった。
40歳を超えて移籍したバッカニアーズでは、実力が衰えるどころかさらに磨きがかかった。移籍初年度の2020年シーズンにはチームを18年ぶりのスーパーボウル制覇に導き、今季はパス獲得ヤード(5316)、タッチダウンパス(43)でリーグ1位の数字をマーク。日本時間1月24日のロサンゼルス・ラムズとのディビジョナル・プレーオフでは一時は24点差を追いつく粘りを見せるも及ばず、連覇の夢が潰えてラストゲームとなってしまった。
そしてカンファレンス・チャンピオンシップの激戦から2日後にスパイクを脱ぐことを決意した。「この1週間、私は多くのことを振り返り、自分自身に難しい問いを投げかけました」と、ブレイディは自身のインスタグラムに投稿。「そして、私たちが成し遂げたことをとても誇りに思います。チームメート、コーチ、仲間たち、そしてファンの皆さんは、100%私にふさわしい存在ですが、今は、献身的な次世代のアスリートにプレーの場をゆだねることが最善です」と自身の引退を発表した。
この投稿には多くの人が反応した。NFLのロジャー・グッデル・コミッショナーは「トム・ブレイディは、NFLでプレーした中で最も偉大な選手の一人として記憶されるだろう」とコメント。また、ブレイディが所属したペイトリオッツ、バッカニアーズはもちろんのこと、同地区で鎬を削ったバッファロー・ビルズ、ニューヨーク・ジェッツ、デンバー・ブロンコス、ヒューストン・テキサンズもユニフォームを脱ぐレジェンドを祝福した。
また、他のスポーツ界からはNBAのロサンゼルス・レイカーズで一時代を築いたアービン・“マジック”ジョンソンも「ありがとう、トム・ブレイディ。22年間、7度のスーパーボウル制覇、いくつかの記録更新、そして一緒にプレーしたすべてのチームメートを成長させました。だからあなたはGOATなんです」と、ねぎらいの言葉をかけるとともにブレイディの偉業をたたえていた。
ニューイングランドで20シーズン、タンパベイで2シーズンプレーしたブレイディの活躍は、スーパーボウル優勝7回(うちMVP5回)、プロボウル選出15回、リーグMVP3回、通算パス獲得ヤード、通算タッチダウンパスなど枚挙に暇がない。米誌『スポーツ・イラストレーテッド』が選ぶ2021年の最優秀選手にも、大谷翔平らを差し置き選出されたばかりだ。44歳で迎えた今季も、パス獲得ヤードでキャリア最高を記録するなど一線級のパフォーマンスを見せ、リーグMVPの候補にも挙げられている。もしMVP受賞することになれば、燦然と輝くブレイディのトロフィーケースには最後の勲章が追加される。もし再びユニフォームを着ることがないならば……。
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著者プロフィール
一野洋●スポーツライター
青山学院大学を卒業後、米軍厚木基地に就職。その後、NFLを題材にしたライターを目指して渡米。アメリカでは寿司職人を経て、日系フリーペーパーの編集者となりNFL、MLB、NBAなどを取材。帰国後はNFL日本語公式サイト、海外競馬サイトのディレクション業務などに従事した。現在は、NFL、Xリーグ、サーフィン、海外競馬、ゴルフ、テニスなど様々なスポーツを扱うスポーツライターとして活動中。