大迫傑がMGCを経て感じたこと 最後に必要になるものとは | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

大迫傑がMGCを経て感じたこと 最後に必要になるものとは

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大迫傑がMGCを経て感じたこと 最後に必要になるものとは
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「2位に入れなかったのは残念ですが、潔い気持ちでした。勝った選手をリスペクトしたいし、プレッシャーの中で戦ってきた選手同士の連帯感がある。ゴール後に言葉を交わしたわけではありませんが、多くの選手が戦いを終えてホッとしている顔を見て、そう感じました」


9月15日に開催されたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)は、富士通の中村匠吾選手が優勝。2位にトヨタ自動車の服部勇馬選手が入り、2020東京五輪のマラソン日本代表に内定した。


激闘の2日後、3位となった大迫傑選手(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)に話を聞いた。


「最後の最後に勝てばいいと思っていた」


マラソン五輪代表「一発選考レース」という異例のMGCに、日本の男子トップ選手ばかり30人が挑んだ。


大迫選手の準備も順調で、周到だった。故障でメニューを飛ばしたこともなく、いつもどおりにいい練習ができていた。暑くなることも想定していた。トレーニングの内容は明かされなかったが、暑さ対策は十分に取ってきた。


「走っているときはみんな一生懸命なので、暑さを感じることはなかったです。最後に疲れを感じることはあるけれど」


補給地点ではしっかり氷を取った。氷やスポンジは頻繁に置いてあって、なるべく取るようにして、実際にそれで助かったという。


レース展開も想定内だった。


「設楽悠太選手かは分からなかったけれど、だれかがが飛び出すかなとは思っていました。でも落ちてくる可能性のほうが高いと考えていました



(c)Getty Images



ライバルである設楽選手を大迫選手はあえて追わず、後続のメイン集団に位置する走り方を選択したのはそんな心理があったからだ。


「レース中、こういったらアレかもしれないけど、ボクを中心にレースが動いていたと感じました。設楽選手が行ったとき、ボクが追えばみんな着いてくると感じました」


順位がすべてというプレッシャーのかかる大会。沿道の観客が、先行している設楽選手とのタイム差を教えてくれた。


「大丈夫だと思いつつ、それが多少の焦りにつながったのかな。こういう独特の大会だっただけに、いつもと違う状況でした」


わずかな焦り。フルマラソンはそのわずかな心の揺れ、小さな判断ミスが積み重なって大きな差になって表れる


次第にタイム差を広げていく設楽選手。通常のレースでは一呼吸置いてからだれかが追走を始めることが多いが、だれも行かなかった。だから大迫選手が最初に動いた


「最後の最後に勝てばいいと思っていたので、最後の800mで脚が残っていればいいかなと思っていました」


15km地点で鈴木健吾選手(富士通)が集団を抜け出そうとしたときに、大迫選手は力を使ってしまったのも、小さな判断ミス。最後の勝負に響いた要因のひとつだ。


「ミスはそこだけではないし、ペースが狂ったわけではないけれど、悪いサイクルにはまっていった。あれが分かれ道だったかもしれない


「いかに自分を信じられるか。やはりフルマラソンは難しい」


大迫選手を含むメイン集団は37km過ぎに設楽選手を吸収。そして勝負どころの39km地点となり、優勝することになる中村選手が一気に前に出た


「そのときはいっぱいいっぱい。もう着いていけなかった」


実は35、37kmほどで「まずいかな」という身体の状態だったと大迫選手は告白した。マラソンが最も厳しいのは30km~35kmという鉄則を如実に表す証言だ。


「2位狙いでペースを抑えても2位になれたとは思いません。服部選手もいたし。最後だけがクローズアップされるけど、それ以前に戦いがあった。いろいろな選手が行きましたけど、集団の主導権争いの中心になりすぎたことで体力を使っていた。正直なところ、それが反省点です」



(c)Getty Images



大迫選手はこれまでも「勝つ」とか「表彰台に上る」という気持ちで臨んでいたため、タイムを意識して走ったレースはないという。2位までが五輪代表内定というMGCであっても、それは変わりなかったはずだ。


ゴール後に迎えてくれた家族とは「おつかれさま」という短い言葉を交わした。


「この結果は残念だという大前提はありますが、20km地点ではゴールできるのかなというくらい不安になった。それでもゴールできたのでやりきった感はあります。いかに自分を信じられるか、やはりフルマラソンは難しいです」


ピンク色のシューズも注目を集めたMGC


また、MGCでは出場選手たちの多くがピンク色のシューズを履いていたことにも注目が集まった。ナイキ社製の「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」という新製品で、今話題の厚底モデルである。


「これまで以上にクッション性が高まり、脚を守ってくれる。後半に向けて(体力を)貯めやすくなった。アッパーも汗や雨などの水分の吸収をとても抑えることができ、さらに快適に走れるようになった」


大迫選手も初めて厚底モデルを履いたときは、「もちろん違和感がありました」という。「それは自然と順応できていった。慣れたら履きやすいシューズだなと思います」


「今回のMGCでも中村選手や服部選手など上位選手はみんな履いています。この商品が優れているから履いて、口コミで広がっている。設楽選手やボクが履いているからではなく、ホントにいいものはいいという世界です」


その一方で、速く走るためにカーボン製のプレートが入っているので、その走り心地に慣れることも必要。大迫選手もジョグはナイキ エア ズーム ペガサス 36を愛用する。さらにトラック練習のときはスパイクシューズで質の高い走りを目指すという。


「一般ランナーにひとつアドバイスすることがあるなら、トップモデルはある程度マイル(耐用距離)が決まっていて、練習時から無駄遣いできないので、ナイキ ズーム ペガサス ターボ 2やナイキ ズームフライ 3などを履いて、ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%に近い感覚に慣れていくのがいいと思います」



(c)Getty Images



大迫傑がMGCで得られたもの


MGCが開催され、これまで以上に多くの人たちが関心を持ってくれたことが嬉しいという。これだけ多くの人が注目してくれて、日本ではマラソンが注目されるスポーツなんだと再確認できた。


「もちろん自由に観てもらっていいけど、選手の特性を知ったり、そんな状況だから後半に落ちたのかなんていう見方があると、マラソン観戦はさらに楽しくなります。小さい判断の積み重ねが後半のタイムとなって出てくるんです。今回のレースで得られたものは、いかに自分を信じられるか、最後は精神力であることが分かったこと」


今後はまず休養。ダメージを取り除くことも練習の一環だと言い切る。


「東京五輪はボクの中でもちろん大きな存在。ただ(五輪代表選手に)決まらなかったということで、やらなきゃいけないことがでてきた。今はそこに集中するしかない。東京五輪のことは、今はイメージできない」


≪山口和幸≫


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