【THE REAL】横浜F・マリノスの新司令塔、天野純が追いかける背中…J1初ゴールから幕を開ける挑戦 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】横浜F・マリノスの新司令塔、天野純が追いかける背中…J1初ゴールから幕を開ける挑戦

オピニオン コラム
横浜F・マリノス サポーター 参考画像(2014年4月2日)
  • 横浜F・マリノス サポーター 参考画像(2014年4月2日)
  • 齋藤学 参考画像(2014年4月22日)
  • 中村俊輔 参考画像(2014年4月22日)
■開幕から13試合目で訪れたトップ下拝命

ゴールにより近いポジションを任されたときから、天野純は比較されることを覚悟していた。横浜F・マリノスのトップ下。しかもレフティーとなれば、誰もが中村俊輔をまず思い浮かべる。

「やっぱり言われることが多くなってきたし、僕自身もそこは気にします。でも、昨シーズンの後半からずっとボランチでプレーしてきましたけど、トップ下の選手だと僕は思っているので」

マリノスを象徴するレジェンドが、ジュビロ磐田へ新天地を求めた今シーズン。トップ下を任されたのはFCバルセロナの下部組織で育った新外国人、ダビド・バブンスキーだった。

セルビアの名門レッドスター・ベオグラードから加入し、マケドニア代表歴ももつ23歳は浦和レッズとの開幕戦、北海道コンサドーレ札幌との第2節で連続ゴールを決める鮮烈なデビューを飾る。

父のボバン・バブンスキーも、黎明期のガンバ大阪でディフェンダーとして活躍。親子でゴールを決めた史上初の外国人選手としても脚光を浴びたバブンスキーはしかし、次第に精彩を欠いていく。

連勝スタートを果たしたマリノスも失速。右のマルティノス、キャプテンと「10番」を俊輔から引き継いだ左の齋藤学が仕掛けるカウンターも相手に研究され、黒星が先行するに至った。

齋藤学
(c) Getty Images

迎えた5月27日。清水エスパルスとの第13節で、フランス人のエリク・モンバエルツ監督が動く。開幕からボランチとしてフルタイム出場してきた4年目の天野を、トップ下に配置転換した。

「今シーズンずっと試合に使ってもらっていたけど、満足のいくパフォーマンスができなかった。というよりも、逆にチームの足を引っ張るくらいだったので」

長くトップ下を主戦場としてプレー。順天堂大学時代には「大学ナンバーワン」の評価を得ていた天野は、心中に捲土重来を期して慣れ親しんだポジションに臨んだ。

■レジェンドの壁の前に跳ね返され続けた日々

横浜F・マリノスプライマリー追浜に入団した小学校時代から、トリコロールカラーに魅せられてきた。ジュニアユース追浜、ユースと順調に階段をのぼってきたが、トップチームへの昇格はかなわなかった。

振り返ってみれば俊輔も、ジュニアユースからユースに昇格する扉を閉ざされた。臥薪嘗胆の思いを抱きながら進んだ桐光学園高校で心技体を磨き上げて、卒業時にはマリノスを振り向かせてみせた。

高校と大学の違いはあるものの、一度は断念せざるを得なかったマリノスでのプレーを、努力で手繰り寄せた軌跡は俊輔と変わらない。ひとつの夢をかなえた2014シーズン。天野は大きな壁に跳ね返され続けた。

前年に自身初の2桁ゴールをマーク。直接フリーキックによる通算ゴール数で、日本代表の盟友・遠藤保仁(ガンバ大阪)を抜いて歴代トップに立ち、リーグMVPを獲得していた俊輔は円熟の境地に達していた。

横浜F・マリノス時代の中村俊輔
(c) Getty Images

ルーキーイヤーの天野はリーグ戦、ヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)ともに出場試合数がゼロに終わる。2年目もリーグ戦は6試合、わずか169分間のプレーにとどまってしまう。

ターニングポイントが訪れたのは、昨シーズンのセカンドステージだった。俊輔が故障で長く戦列を離れたことに伴い、中盤の再編成を余儀なくされた8月以降で天野は先発メンバーに名前を連ねはじめた。

トップ下ではなくボランチとしての起用が多くなったなかで、セカンドステージだけで10試合に出場。天皇杯ではアルビレックス新潟との4回戦、ガンバとの準々決勝で連続して決勝弾をあげる活躍を演じた。

背番号を「29」から「14」に変え、主力の自覚と責任を抱いて戦ってきた今シーズン。天野の心にちょっとだけ引っかかるものがあった。リーグ戦における通算ゴール数の欄が、依然として「0」だったからだ。

■イメージと完璧にシンクロした初ゴール

誰よりも天野自身が待ち焦がれた瞬間は、6月18日に訪れた。敵地に乗り込んだFC東京とのJ1第15節。両チームともに無得点のまま、時計の針は後半43分に達していた。

トップ下でプレーしながら、天野はFC東京の守備網に生じる隙を把握していた。バイタルエリアの左サイドに、大きなスペースが空く。機会があるごとに、ボランチの扇原貴宏に耳打ちした。

「相手の足が止まってきたら、オレがそこ(バイタルエリア)に入るから見てくれ」

果たして、スコアレスドローの気配も漂ってきた直後に思い描いてきた場面が現実のものとなる。左タッチライン際でスローインを受けた扇原が、すかさず右斜め前方へ長いパスを入れる。

ポッカリと空いたスペースに顔を出した天野は、ペナルティーエリア付近に途中出場していたFW富樫敬真がいることを把握。そのうえで、ゴールに至る鮮明な絵を瞬時に描いていた。

「フリックでケイマン(富樫)に一度当ててからオレがまたもらえば、オレの前が空くことがわかっていた。ケイマンからの落としが本当によかったので、ボールが来た瞬間に狙おうと」

扇原のパスを左足によるワンタッチで天野が前方にはたく。富樫はDF吉本一謙の前に巧みに回り込み、浮き球を頭で落とす。そのとき、天野は弧を描くコース取りから、DF森重真人の背後を突いていた。

左側から絶妙のボールが転がってくる。目の前には誰もいない。無意識のうちに、利き足とは逆の右足を振り抜いた。アウトサイドにかかった弾道が、左ポストをかすめるようにしてゴール左隅に突き刺さる。

FC東京の守護神、元日本代表の林彰洋の牙城を破るリーグ戦初ゴールが千金の決勝弾になった。そのままゴール裏へ駆け寄り、サポーターと喜びを分かち合った天野は短い言葉に喜びを凝縮させている。

「イメージ通りのゴールでした」

やっと初ゴール10年に1度の右足が炸裂だよ。 もう右足には期待しないで下さい

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■セットプレーで違いを見せた先にあるもの

これまで連勝が最高だったマリノスは、今シーズン初の3連勝を同じく初の連続完封で達成。天野がトップ下に移ったエスパルス戦から右肩上がりに転じ、順位を暫定5位に上げてきた。

「チームは連勝していたけど、僕のパフォーマンスにはサポーターの方々もストレスを溜めていたと思う。それでもずっと応援してくれていたので、やっと恩返しができたというか、気がついたらゴール裏へ走っていました」

心のなかに溜めていた、偽らざる思いを吐き出した天野は、マリノスのトップ下を務めるうえで心がけている点を2つあげている。

「味方のボランチの位置まで下がりすぎないことと、相手のボランチの後ろにいながら(味方からの)パスコースを作り続けることですね。そうすることで、相手のボランチが自分たちのボランチに対してプレッシャーをかけにいけないと思うので」

ボランチを務めているときから、総走行距離で常にチームの上位を占めてきた。雨に打たれたFC東京戦でも、11.989キロと両チームを通じて最長距離を走った。

「運動量とスプリントで常に貢献してくれているし、戦術的な役割も高いレベルでこなし、チームに流れを作ってくれる。彼のパフォーマンスと得点を本当に嬉しく思う」

モンバエルツ監督から賛辞を送られた天野だったが、もちろん満足していない。U‐21ヨーロッパ選手権に出場中のバブンスキーが再来日し、トップフォームを取り戻せば再びポジション争いが幕を開ける。

「セットプレーで一発、違いを見せられればもっと楽に勝てる。今日は貢献できたけど、満足することなくもっともっと点を取りたい」

昨シーズンまでは俊輔が担った、セットプレーのキッカーもいまは託される。チームは変わったが、依然として高くそびえる壁の頂に少しでも近づくために。天野の崇高な挑戦は続く。
《藤江直人》

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