【THE REAL】宇佐美貴史があげる静かな雄叫び…ハリルジャパンとドイツの地で再び輝くために | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE REAL】宇佐美貴史があげる静かな雄叫び…ハリルジャパンとドイツの地で再び輝くために

オピニオン コラム
宇佐美貴史  参考画像
  • 宇佐美貴史  参考画像
  • 宇佐美貴史 参考画像(2017年4月22日)
  • 宇佐美貴史 参考画像(2016年12月17日)
  • 宇佐美貴史 参考画像(2016年9月1日)
■合宿が始まる前日に届いた緊急連絡

スマホにおもむろに着信が入った。日本サッカー協会の関係者からだった。5月28日から千葉県内で始まる、海外組だけを対象とした日本代表合宿に参加してほしいとFW宇佐美貴史は告げられた。

新天地アウグスブルクでの1年間の戦いを終えて、ドイツから帰国していた宇佐美は、ちょうど京都・長岡京市内の実家に戻っていた。連絡を受けたのは前日27日の夜。慌てて身支度を整えた。

「明日の昼に千葉へ来てくれと。ホンマに急ですよね。マジかよ、みたいな。けっこう(予定していたものが)飛んでいますよ」

決してボヤいているわけではない。言葉こそややネガティブな響きを伴っていたが、取り囲んだメディアの笑いを誘おうとしていた意図も伝わってくる。表情は終始、穏やかだった。

シリア代表とのキリンチャレンジカップ2017(6月7日・味の素スタジアム)、イラク代表とのワールドカップ・アジア最終予選(同13日・テヘラン)に臨むメンバー25人のなかに、宇佐美の名前はなかった。

発表されたのは5月25日。公表されていないが、日本代表を率いるバヒド・ハリルホジッチ監督は、万が一の実態に備えてバックアップメンバーも選出。準備は怠らないように、と連絡を入れていた。

万が一とは、要は故障でプレーができなくなること。そして、スペインでの活躍が認められ、約2年2ヶ月ぶりに招集されたFW乾貴士(エイバル)が右足首を捻挫していることが発覚する。

乾は初日から日本代表合宿に参加。フルメニューを消化した一方で、29日の午後練習にはチームメイトたちから離脱。患部を気遣ったのか、一時的に別メニューでの調整に切り替えている。

それでも、宇佐美の立場はあくまでもバックアップメンバー。乾が満足のいくプレーができない、と最終的に判断された場合にのみ入れ替わる、極めて微妙な立場で練習に臨んでいる。

■新天地で居場所を築けなかった理由

忸怩たる思いを抱きながら帰国した。新任のディルク・シュスター監督のもとで、開幕直後から続いた試合に絡めない日々。終えてみれば出場わずか11試合で、先発は5度。無得点に終わった。

「辛く、苦しい1年でした。チーム自体もなかなか上手くいかず、最後に巻き返して何とか残留しましたけど。間違いなく『いい1年だった』とは言えなかった」

ブンデスリーガ1部残留へ、剣が峰に立たされた終盤戦。4試合連続でベンチ入りメンバーからも外れて、シーズンを終えた軌跡が宇佐美の立ち位置を物語っている。

アウグスブルクでは厳しい立ち位置に
(c) Getty Images

シーズン途中の昨年12月に急きょ就任した、マヌエル・バウム監督も前任者と同じく守備重視の戦いを選択。3バックのもと、宇佐美が主戦場とする左サイドにも守備的な選手を配置してきた。

終盤戦でベンチ入りすらかなわなかったのは、負けないことが最大の目的だったからだ。守備に比重が置かれた分、たとえベンチ入りを果たしても出場機会が訪れる確率は限られた。

宇佐美がバイエルン・ミュンヘン、そしてホッフェンハイムでプレーした2011‐12シーズンからの2年間はガンバ大阪からの期限付き移籍だった。

満足できる結果を残せず、2013年夏に復帰した当時はまだ21歳。長谷川健太監督をはじめとする首脳陣、フロント、チームメイト、ファンやサポーターが再出発を後押ししてくれた。

熱いエールに応えるかたちで、国内三冠獲得の原動力になったのは2014シーズン。ハリルジャパン発足後は日本代表の常連にもなった。胸を張って再び海を渡る結果を残した、という自負があった。

だからこそアウグスブルクへ完全移籍する、つまり愛してやまないガンバと決別した昨年6月のセレモニーで、宇佐美は涙を流しながら誓いを立てた。

「2度目は粘り強く、地面にはいつくばってでも努力を重ねて、皆さんに助けてもらわなくても済むような男に成長したい」

■ジョーカーとして抜きん出た存在

アウグスブルクで不完全燃焼が続いても、ハリルホジッチ監督は宇佐美を招集し続けた。指揮官は日本人選手のなかで、宇佐美を特別な存在として位置づけていた。

「ボールを受けて、ドリブルで相手を抜いてゴールまで決められる数少ない選手の一人だ」

試合が手詰まりの状況になったときに組織力ではなく、突出した個の力で相手守備網を崩せる存在。いわゆる「ジョーカー」の筆頭候補であり続けたからこそ、常にリストに加えられてきた。

今回は「ジョーカー」枠を乾と争い、一度は選外となった。それでも、国内組の齋藤学(横浜F・マリノス)や中島翔哉(FC東京)よりも、指揮官のなかのヒエラルキーでは上にランクされていたのだろう。

乾に発生した緊急事態を受けて、あくまでもバックアップメンバーという肩書ながら、急きょ呼び出された事実が宇佐美のモチベーションを否が応でも刺激する。

「急でも何でも来なければいけないというか、来られることを光栄に思わなければいけない場所が代表だと思っています。準備することを求められることが選手としての宿命だと思っているので、急に呼び出されようが、予定が飛ぼうが、ポジティブにやり続けるだけです」

指揮官は、突出した個の力に信頼を寄せる
(c) Getty Images

ACミランからの退団を表明しているFW本田圭佑と同じく、宇佐美も日本代表に招集されたときには少なからずファンやサポーターの批判の対象となってきた。

最近で言えばUAE(アラブ首長国連邦)、タイ両代表と対峙した今年3月が記憶に新しい。宇佐美は自分自身へのプライドを込めながら、こんな言葉を残している。

「もちろんコンスタントに試合に出ているほうが、いいコンディションで入れると思う。それでも、サッカーをすることに変わりはないし、自分のなかにおける自信というか、自分自身がサッカーをしていく感覚というものをブラさなければ大丈夫だと思っている」

■トップ下へコンバートされる新シーズン

帰国する直前にバウム監督、スポーツ・ディレクター(SD)のシュテファン・ロイター氏と話し合いの場をもった。選手獲得に関して大きな権限をもつSDのロイター氏は、宇佐美の能力を評価する一人とされる。

話し合いのテーマのひとつに、新シーズンにおける宇佐美の起用法が含まれていた。ドリブルからのカットインが最も生きる左サイドハーフから、コンバートさせるプランを告げられたと宇佐美は明かす。

「来シーズンはポジションを変えるという感じでした。2人には『10番のポジションでやってもらいたい』と言われたというか。それでけっこう(状況が)変わるかな、とは思っているんですけど」

10番のポジションとは、要はトップ下のこと。ガンバではツートップの一角か左サイドハーフ。ハリルジャパンでは左ウイングをメインにプレーしてきた男は、早くも新たなイメージを描いている。

「2人が話していたのは『よりボールを触れるポジションでプレーしたほうが、僕の特徴が生きる』ということ。僕もすでにそのつもりでいますし、ポジションが変われば見えてくる景色もまた変わるのかなと」

ポジション変更が状況打破のきっかけとなるか
(c) Getty Images

ハリルジャパンでも長く左ウイングのファーストチョイスを担ってきたが、昨年9月を境に原口元気(ヘルタ・ベルリン)に取って替わられた。アウグスブルクで輝きを放つことが、逆襲への序章となる。

「まずは来シーズンへ向けて、この日本代表合宿を一歩目にできたら。いい準備をするための期間にしようと思っているというか、それのみですね。いいモチベーションでいることは確かです」

いまも愛するガンバのファンやサポーターへ、はつらつとした姿を届けるために。何よりもまだ見ぬワールドカップのヒノキ舞台に立つために。宇佐美の新たなチャレンジは、千葉の地からすでに始まっている。
《藤江直人》

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