そこから見える小さな山々の風景といったら!
周囲の山はどれもこれも低い山ばかりなのだが、不思議な迫力を感じてしまう。それでいて高山から見る景色と違い、心の安らぎも与えてくれる。そんな里山の風景を眺めながら岩場に座り込み、昼食のおにぎりを頬張り、ノンアルコールのビールを流し込む。
春の風はちょっと冷たいけれど優しくて、木々の葉ずれの音は耳に心地よい。天気もよいし、何も言うことはない。ああ、訳わからんけどとにかく幸せだ、と思う。
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ハッチメ滝
ハッチメ滝などを見ながら下山すると、そのまま地元の温泉へ。まだ日も高いというのに、風呂につかるというのは贅沢だ。温泉には、地元の人と思われる素敵なオジサマ方がたくさん。風呂に来て「よおっ!」と挨拶を交わす。温泉コミュニティができているようだ。
温泉から出たら、広間のソファに寝そべって、だらりとテレビを眺める。自宅でくつろぐような格好であるが、羞恥心はない。何故なら他にも同じようにして過ごす人がいるから。解放的な空間に、とことん甘えてしまう。
帰り道の途中では、蕎麦屋に寄って常陸秋そばを食べる。蕎麦がまた、いつになく美味い。
山に滝に温泉に、蕎麦。里美の恵みを、目に足に、身体全体に、そして、舌や胃袋に染みこませ、心まで里美に染まってしまう。これぞ「里山日和」。いや、「里美日和」か。
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鍋足山山頂の松の木
休日を里美でのんびりと過ごした後は、なかなか日常生活に戻れやしない。何もかもがズレた感じで仕事がうまくいかず、上司からどやされる始末。
「まったく、休みに何をやっていたんだ、こんな腑抜けになって!」
「はぁ、里美の山で過ごしたところ、すっかり日和(ひよ)ってしまいまして」
「ああ、それでか。それは里美日和というやつだ。実は私も先週里美の山に登って……」
穏やかな春の陽気に誘われて。休日を里美で過ごせば、良くも悪くも、常世のことなどきれいさっぱり忘れさせてくれるだろう。