【THE ATHLETE】6点取れる発言に込められたエンリケの覚悟と信頼、カンプ・ノウの奇跡は試合前から始まっていた | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】6点取れる発言に込められたエンリケの覚悟と信頼、カンプ・ノウの奇跡は試合前から始まっていた

オピニオン コラム
バルセロナが6発大勝で大逆転ベスト8 (2017年3月8日)
  • バルセロナが6発大勝で大逆転ベスト8 (2017年3月8日)
  • バルセロナが6発大勝で大逆転ベスト8 (2017年3月8日)
  • 値千金のゴールを決めたバルセロナのセルジ・ロベルト(2017年3月8日)
  • バルセロナのルイス・エンリケ監督(2016年3月8日)
  • パリ・サンジェルマンのカバーニがアウェーゴール(2017年3月8日)
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦、バルセロナ(スペイン)は敵地でのファーストレグを0-4で落とすも、セカンドレグは6-1で勝利。パリ・サンジェルマン(フランス)を下して準々決勝に駒を進めた。

CL史上初となる4点差からの逆転劇を世界中の人々は『カンプ・ノウの奇跡』と称えるが、ルイス・エンリケ監督は「ホラー映画のような筋書きだった」と振り返る。

「ホラー映画のような筋書きだった。サスペンスではなくホラーだ。素晴らしいスタートを切ることができたし、カンプ・ノウの雰囲気も過去にあまり見たことがないほどのものだった」

試合後の会見で安堵したように語るエンリケ監督。試合前の会見では、「我々から4点取れるチームがあるのだから、我々が6点取ることだって可能だ」と強気の発言をしていたが、当然それがいかに困難であるか分かっていたはずだ。

監督になってからは最もテンションの高い一戦だったと振り返っている。

チームを鼓舞したエンリケ監督
(c) Getty Images

■3-4-3の超攻撃的布陣を準備してきたバルセロナ

戦術的に見るならバルセロナの勝因は普段の4-3-3ではなく、この日のために3-4-3のシステムを入念に準備してきたことだ。リオネル・メッシをいつもの右ウイングではなくトップ下に置く布陣を、リーガ・エスパニョーラの試合から試してきた。すべては逆転突破を実現するためである。

指揮官は最初から『2戦合計スコアでは届かなかったが、ホームで意地を見せた』などと言われて満足するつもりはなかった。

より前に人数をかけてプレスを仕掛け、常に高い位置で勝負し続ける。ハイリスク・ハイリターンの心がひりつく時間が続く。

「今日は選手たちの姿勢を見ることができた。いつもスペクタクルな戦いをするが、今日の彼らは最大限のリスクを冒した。あれ以上は不可能だ。わずかな人数だけで守っていた。信じたことがもたらした勝利だった」

■「6点取れる」発言に込められた覚悟と信じる気持ち

後半5分のゴールで3-0とリードしたバルセロナ。あと1点奪えば延長戦に持ち込めるところまで盛り返した。だが同17分にパリSGのエディソン・カバーニにアウェーゴールを決められてしまう。リーグ・アン屈指のストライカーにゴールを許したことで、バルセロナの挑戦は終わったかに思われた。

アウェーゴールを決めたカバーニ
(c) Getty Images

ハリウッドで脚本のコンサルタント業を行っているリンダ・シガーは、自著『ハリウッド・リライティング・バイブル』の中で多くの脚本家や脚本家志望が苦労する物語中間の書き方、勢いを持続させる方法として3つの言葉を紹介している。『バリア(障壁)』『コンプリケーション(複雑化)』『リバーサル(反転)』である。

このうちシガーは『リバーサル』が最も強力に働くと説く。たとえば週末に放送されるテレビの2時間サスペンス物を思い出してほしい。有力な容疑者が浮かび上がって一気に事件解決と思ったら、新事実が発覚してガラリと様相が変わるという流れを私たちは物語の中ほどで何度見させられただろう。それまで順調に登っていたはずの梯子を蹴り飛ばされる感覚。

バルセロナの逆転を信じる人々にとって、カバーニのゴールは物語中間部の『リバーサル』だった。天国から地獄。ポジティブからネガティブへと一瞬で物語は反転する。

5-1の勝利で2戦合計スコア5-5に並んでも、アウェーゴールの差で敗退が決まる。逆転には最低でも残り時間で3点が必要になった。6-1以上での勝利。そう。エンリケ監督が試合前に言っていた、あの点数である。

「我々から4点取れるチームがあるのだから、我々が6点取ることだって可能だ」

なぜエンリケ監督は4点でも5点でもなく、6点と言ったのか。最初からアウェーゴールを奪われること前提で考えていたのだろう。フランス王者相手に捨て身の攻撃を仕掛けて無傷で終われるはずがない。ご都合主義の理想論ではなく、自分たちなら逆転できると本気で信じていたからこそ、突破ラインを6点に設定したのではないか。

後半40分過ぎまでスコアは3-1のままだったが、カンプ・ノウに詰めかけた96,290人の観客は逆転劇を信じて応援し続ける。選手も最後まで戦う姿勢を崩さなかった。そして物語は奇跡の7分間と称される怒涛の伏線回収が始まる。

■世界中のファン全員で決めたゴール

ネイマールが後半43分にFKを直接決めて4-1とすると、3分後にはPKも成功させて5点目を奪う。アディショナルタイムのセットプレーではGKのテア・シュテーゲンまで前線に上げ、全員で1点を狙いに行った。

セルジ・ロベルトが値千金のゴール
(c) Getty Images

そしてアディショナルタイム5分、ネイマールの浮き球のパスに途中出場のセルジ・ロベルトが飛び込んでゴールが生まれた。

ファンも選手もスタッフも一体となり、優勝したかのような騒ぎを見せるカンプ・ノウ。エンリケ監督は最後まで席を立つことなく応援し続けてくれたファンにこの勝利を捧げると感謝した。

「カギは信じる心だった。後半39分まで私たちは敗退の危機だった。だが、全員で試合を引っ張り、キーパーまでがシュートを狙った。6ゴール目は世界中のバルサファン全員で決めたものだ」

《岩藤健》

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