■小雨降る秋日の尾瀬の魅力
草紅葉によって金色に染まった湿原。その中にかかった木道をひたすら歩く。金色の野を歩く気分は、無論『風の谷のナウシカ』である。かすかに見える山々は、ところどころが赤や黄色に紅葉し始めていて、平地よりも一足早い季節の進み具合を視覚で感じさせる。晴れていれば見えたであろう至仏山と燧ヶ岳の存在は、霞みがかった景色のその先にうっすらと、でもどっしりと確認することができた。
それらの風景に、遥か遠く異国の地までやってきたような、とてつもない大冒険をしているような、そんな感覚を覚えた。
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天気予報は雨だったが、本降りになることなく、無事に下山できた
■秋が来れば思い出す、尾瀬の旅
山好きの方には、もはや説明不要の尾瀬ヶ原は、福島県・新潟県・群馬県の3県をまたぐ盆地状の高層湿原である。
春のミズバショウ、夏のニッコウキスゲを筆頭に多くの花や植物が見られるほか、イモリやイワナ、カモシカにオコジョ、そしてツキノワグマなどの人里では滅多に見られない動物も生息している。尾瀬ヶ原から見る日本百名山の燧ヶ岳と至仏山の姿は、それはそれは見事なもの。日本百景にも選定されているその風景は、多くの人々を魅了し続けている。
「夏が来れば思い出す、遥かな尾瀬、遠い空」
歩きながら思わず口ずさむのは、昭和の時代に大流行した歌曲「夏の思い出」である。
すると、一緒に歩いた友人に「音程違くない?」と突っ込まれた。今まで自分が音痴だという認識はまるでなく、むしろ歌はうまい方だと自信すら持っていたのだが。
四十路間近になるまで知らなかった事実を知ることになった尾瀬の旅は、筆者にとってほろ苦い「秋の思い出」となった。