ひとりの武士(源義家)が神様から授かった大きな太刀を振り上げ、巨石に向かって切りつけるさまを。そうして真っ二つに、きれいに割れた巨石の片割れが、ゴロンと地面に転がるさまを。
■竪破山の七奇石
茨城県日立市にある竪破山には「七奇石」と呼ばれる奇石があり、太刀割石もそのひとつに数えられている。太刀割石と同じように、他の石にもそれぞれストーリーがあるのが面白い。
「胎内石」という岩屋は、「常陸国風土記」に出てくる黒坂命(くろさかのみこと)という武人がこの岩陰で身体を休めたと言われている。くり抜かれた石の中に薬師如来の像が祀られている「甲石(かぶといし)」は、鎧をつけた武将の兜に似ていたことから徳川光圀公が名付けた。「烏帽子石」は、義家が竪破山に参拝した際にかぶっていた帽子に似ているらしい。
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甲石
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烏帽子石
義家が腰を下ろして休んだ畳を重ねたような石は「畳石(腰掛け石)」と呼ばれ、神輿が通る際にお神楽を下ろした石は「神楽石」、船が山に登る形に似ている「舟石」といった具合に、七つの奇石にはそれぞれに何かしらの「云われ」がある。
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畳石
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神楽石
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舟石
■奇跡の山・竪破山
また、七奇石には含まれないが、石の上に不動明王が祀られ、その足元に水が流れ落ちる様が見事な「不動石」や、義家の右手の手形がついた「手形石」、軍配のように見える(?)「軍配石」などもある。竪破山は小さいながらも奇石のオンパレードなのだ。
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不動石
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手形石
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軍配石
これらの「奇石」がひとつの山に集中していること自体が「奇跡」だと言い、竪破山がピラミッドであるという仮説もある。
奇跡ゆえに、つまらない疑問を抱くのは野暮というもの。太刀割石のふたつの石の断面が、どう考えても重なり合わないほどに大きさの差異があることとか、軍配石がどうしても軍配には見えないこととか。
もし、疑問を抱いてしまったとしたら、その時はそれこそ、それらの疑問にも“目をつぶって”欲しい。「目の前にある事象だけが、真実とは限らない」という教訓が、竪破山にはあるとかないとか。これは、筆者が立てたいい加減な仮説である。