J1の年間総合順位で3位以内を確定させて、チャンピオンシップへの初出場を決めた川崎フロンターレの大黒柱、35歳のキャプテン中村憲剛から、ことあるごとに「哲学」を叩き込まれているホープがいる。
川崎フロンターレU‐18から昇格して2シーズン目。出場試合数を「3」から「13」へ、プレー時間を「32分」から「359分」へと大きく伸ばしている19歳の三好康児は、中村からこんな言葉をかけられてきた。
「そこで受けられるのは当たり前で、そこで前を向けるのも当たり前になってきたら、今度は最後のバイタルエリアでの仕掛けというか、どれだけ怖いプレーができるか」
中村の言う「そこ」とは、三好が主戦場とするトップ下を含めた2列目。ピッチのうえで同じ時間を共有するようになった今シーズン。才能を開放させつつあるホープは、中村の目にはこう映っていた。
「まだまだ適当にやっちゃうというか、ノリでやっているところがあるので。こればかりは言っていくしかないと思うけれども、アイツも自覚をしているからこそ、このスピードでここまで(伸びて)きているので」
■神奈川ダービーで放ったループ弾
迎えた9月25日。前売り段階でチケットが完売となった、ホームの等々力陸上競技場に横浜F・マリノスを迎えたセカンドステージ第13節の「神奈川ダービー」で、三好がまばゆい輝きを放った。
7月13日のアルビレックス新潟戦以来となる、今シーズン3度目の先発。ポジションをキックオフ時のダブルシャドーの一角から、後半途中のシステム変更に伴ってトップ下に変えて迎えた同39分だった。
フロンターレ陣内でマリノスのDF小林祐三が前線のMF齋藤学を狙ったパスを、DF車屋紳太郎が左足を伸ばしてカット。こぼれ球を拾ったMF田坂祐介に、三好の強い意思が伝わってきた。
「僕が前を向いたときには、三好がすでに『くれっ』という感じで走り出していたので。足元にしっかりとパスを入れさえすれば入れ替われるとも思ったので、とにかく丁寧に出しました」
車屋がカットした時点で、チャンスの匂いを嗅ぎ取っていたのか。すでに全力でスプリントをかけていた三好は田坂と視線を合わせながら、右手でボールを要求するゼスチャーを送っている。
目指すコースはマリノスが誇る屈強なセンターバック、中澤佑二と栗原勇蔵の元日本代表コンビのど真ん中。田坂のパスを利き足の左足のアウトサイドで軽く触りながら、さらにスピードを加速させる。
必死に体を寄せてくる中澤と栗原の間を、167センチ、64キロの小さな体が滑らかにすり抜ける。そして、ゴールさせてなるものかと飛び出してきた、GK榎本哲也の眼前で左足をボールに優しくタッチさせる。
「前半からディフェンスラインの間で、裏に抜けながらボールを受けるイメージがあったのでずっと狙っていました。タサさん(田坂)がいい形で前向きにボールをもってくれたので、狙い通りにいけました。時間的に少し足にきていたので、思い切り振り抜くというよりは、少し力を抜いた意表を突くシュートで逆を取れたのかなと」
左足から放たれたループ弾が榎本の頭上を越えて、美しい軌道を描きながら無人のゴールへ吸い込まれていく。リードを2点に広げる芸術的な一撃に、ファンやサポーターは大いなる可能性を感じたはずだ。
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《藤江直人》
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