【THE ATHLETE】プレミアリーグにも影響必至、イギリスのEU離脱 | CYCLE やわらかスポーツ情報サイト

【THE ATHLETE】プレミアリーグにも影響必至、イギリスのEU離脱

オピニオン コラム
イギリス 参考画像
  • イギリス 参考画像
  • サッカー北アイルランド代表のマイケル・オニール監督 参考画像(2016年6月21日)
  • イングランドサッカー協会のグレッグ・ダイク会長 参考画像(2016年4月6日)
  • サッカーベルギー代表GKのティボー・クルトワ 参考画像(2016年6月17日)
イギリスは6月23日に国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた。『Brexit=英国離脱』派の勝利に終わった投票結果は、直後から世界的な混乱を招きスポーツ界にも大きな影響をおよぼすと考えられている。

■イギリスを真っ二つに割った国民投票

この決定を見て多くの人々が自分の意見を表明し始めた。普段は政治的な話をしない有名人まで、この問題には何かを言わずにはいられなかった。そして、その多くが「予想外。イギリスは残留すると思っていた」と語っている。

サッカー北アイルランド代表のマイケル・オニール監督は、ウェールズとの英国ダービーを控えた欧州選手権(EURO)の決勝トーナメント1回戦を前に、「個人的にはミスを犯してしまった。郵便投票のチャンスを逃したので自分自身に落胆している」と話した。


サッカー北アイルランド代表のマイケル・オニール監督

今まで加盟してこなかった国が「やはり加盟しない」と決めるのと、経済の大部分をEUに依存してきた国が「離脱する」と決めるのとでは意味合いが異なる。変革よりも現状維持を好むと言われる人間の性質を考えたら、離脱派の勝利は大きな驚きだ。

今回の投票を『合理性と感情』の相克と論評する向きもある。よく言われるのが「離脱派は地方に住む人、老人、低学歴、低収入」が多く、そうした人々がエスタブリッシュメントの唱える『政治的な正しさ(political correctness)』に反旗を翻したとする物語だ。アメリカで起きたドナルド・トランプ現象のイギリス版として彼らは理解し、納得しようとしている。

たとえばメディアは今回の国民投票について、「移民問題が争点のひとつになる」と伝えてきたが、『Guardian』紙によれば実際の投票で最も熱心に離脱を主張したのは、移民の少ない地域だった。

『Daily Telegraph』紙はイギリス独立党(UKIP)の支持者が多い地域と、移民が多い地域とを地図上にマッピングして比較。両者が重なっていないとしている。ここから彼らが主張したいのは、「地方在住で移民と接点が少なく、それほど高い教育を受けてない人ほど、UKIPの主張を鵜呑みにしてしまった」だろう。

現状に不満を持っているが、自分が本当は何に怒りを感じているか分からない人に向け、「○○が悪い!」と強く言い切ることで複雑な問題をシングルイシューに落とし込み、支持を拡大する手法は珍しくない。そして熱狂が過ぎ去ったあと、多くの人は「自分たちが本当に怒りを感じていたのはこれじゃなかった」と気づく。

だがイギリスメディアが言いたがるように、これらは果たして「学があれば防げた問題」なのか。

そうやって対立する陣営を見下し、「我々の合理的な説明を理解できないのは彼らが無知だからだ。蒙を啓いてやれば同じ意見になるだろう」という態度で接したのが、余計に相手との仲をこじれさせてしまったのではないか。

■イングランド・プレミアリーグへの影響大

今回の決定を受けてイギリスのメディアは、国内のサッカーリーグ(プレミアリーグ)に大きな影響が出ると予想している。1995年に出されたボスマン判決以降、サッカー界ではEU加盟国籍を持つ選手はEU加盟国リーグへの移籍なら外国籍選手扱いにならなくなった。根底にあるのはEUによって保証された労働者の権利であり、EU内で移民が多いことの理由でもある。

選手はヨーロッパ中のリーグでプレーすることが可能となり、資金に余裕のあるビッグクラブはスター選手を獲得しやすくなった。これによりサッカー界は流動性が増し、マネーゲーム化が進んだ。

テレビ局から受け取る莫大な放映権料を元手に、世界中からスター選手を集め魅力的なリーグを作ってきたプレミアリーグ。EU離脱によって外国籍選手の獲得や起用に著しい制限がかかるなら、今の華々しさや繁栄は維持できないだろう。

イングランドサッカー協会(FA)のグレッグ・ダイク会長は『BBC』のインタビューに応じ、「この決定はイギリスのサッカー界に大きな影響を与える」と話した。ダイク会長はプレミアリーグでプレーするイギリス出身の選手が少ないのは問題だとしながらも、「ヨーロッパのスター選手を失いたくはない」と苦渋をにじませる。


イングランドサッカー協会のグレッグ・ダイク会長

■ポンド安でプレミアリーグの競争力が低下?

国籍のほかにプレミアリーグを苦しめそうな問題にポンド安がある。

サッカー界では移籍金の高騰が問題になっている。その流れを先頭で引っ張ってきたのがプレミアリーグ。中堅クラブでも潤沢な資金を持ち、他国リーグから主力を次々に引き抜いてきた。

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だがEU離脱に伴う混乱でポンドの価値が下落すれば、魅力的な選手をコレクションすることは難しくなる。為替レートの変動は落ち着きを取り戻し小康状態を保っているが、混乱の火種は依然として残されたままであり今後も数週間、数カ月、あるいは数年の注視が必要だと警告されている。

プレミアリーグのチェルシーに所属するベルギー代表GKティボー・クルトワは、「選手たちの間では残留するんじゃないかと話していたので、この結果は驚きだ」とEURO中に受けたインタビューで答えた。


サッカーベルギー代表のティボー・クルトワ

「驚いたけどそういう選択がされたのだし、僕らはそれを尊重しなければならない。それがプレミアリーグや日々の生活にどんな影響を持つかはこれから分かるさ」

もちろんFAも手をこまねいて見てるだけではないだろう。何かしらの策は講じるはずだ。そうでなければプレミアリーグは、ヨーロッパサッカーの盛り上がりをドーバー海峡の向こうに見ながら、静かに没落していくことになる。
《岩藤健》

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