■タイの古都チェンマイへ
最初に利用したのは2000年に訪れたタイ。到着したドンムアン空港には駅が直結しており、そのまま夜行寝台列車で北部の古都チェンマイに向かいました。記憶は定かではありませんが料金は600バーツ(1800円/2等寝台)ほどで、食事は乗務員に頼むと席まで運んでくれました。
到着は1時間ほど遅れたもののタイの鉄道ではそれが当たり前ですし、朝の到着ということで遅れて支障が生じることもありません。就寝に合わせてベッドメイキングをしてくれましたし、韓国製の車両は寝るにも快適で、この経験があったからこそ以後も鉄道利用を欠かさないようになりました。
■バンコクから夜行寝台列車の旅
翌年のラオス旅行でも、タイのバンコクからタイ・ラオス国境のノーンカーイまでは夜行寝台列車。このときは奮発して1等寝台としましたが、それでも1200バーツ(3600円)ほどと、ほぼ同じ距離となる東京~姫路の料金(1万7245円/運賃+シングルツイン)の5分の1という安さ。しかも定員2名の個室でしたので、まわりを気にせずのんびりと列車旅を楽しむことができました。
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ノーンカーイまでは夜行寝台列車は、定員2名の個室となる1等寝台で快適
第二次世界大戦中、旧日本陸軍によって敷設された泰緬鉄道(現在のタイ国有鉄道南本線ナムトック支線)に乗ったのは2008年。映画『戦場にかける橋』で有名なクウェー川鉄橋や、多くの犠牲の上に建設されたアルヒル桟道橋などを巡る路線ということで、今は乗客の多くが観光目的です。
乗車した車両の席は、木製のボックスシート。乗り心地はよくありませんが、片道100バーツ(300円)ですから文句は言えません(所要4時間45分)。終点のナムトックは何の変哲もない町で、しかも30分後の折り返しに乗らないことにはその日のうちに戻るのは無理。ということで、その日は鉄道に乗るためだけに費やしました。
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多くの犠牲の上に建設されたアルヒル桟道橋を、ゆっくりと渡る列車
■ミャンマーでも夜行寝台列車の旅
2013年に訪れたミャンマーでも、ヤンゴン~マンダレー間を結ぶ夜行寝台列車を利用。事前に「保線がおざなりで、過酷な揺れに見舞われる」と聞かされていましたが、鈍感なせいか余り気になりません。それより驚いたのが、車内がとても寒いことでした。
「アジアの鉄道は、冷房が効きすぎている」とはよく聞きますが、彼の地の鉄道にそんなシャレたものはありません。つまり外気温そのものが低いのです。ミャンマーといえば熱帯というイメージ。でも行ったのが冬季、しかもマンダレーは内陸ということで、最低気温は13度Cほどにまで下がることを後に知りました。
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マンダレー行きの列車が発車を待つヤンゴン駅のプラットフォーム
■今年はマレーシアに
そして今年のゴールデンウィークは、マレーシアのボルネオ(サバ州)へ。キナバル登山を主目的とする一方、欠かせなかったのが州立鉄道に乗ることです。開業以来120年の歴史を誇るこの鉄道も、近年は災害によりたびたび運休しており、「いつ廃止されてもおかしくない」との焦りにも似た思いが僕の背中を押しました。
下調べをしたところ総延長133.7kmの路線はタンジュン・アル(コタ・キナバル)~ビューフォート(84.7km)とビューフォート~テノム(49km)に分かれており、ビューフォートでの乗り換えに4時間(!)を要するため、日帰りはできないことがわかりました。そのためバスでテノムに向かい、そこからタンジュン・アルに引き返すことに。そうすれば乗り換えは1時間となります。それでも朝8時にコタ・キナバルを発ち戻ってくるのは19時過ぎと、泰緬鉄道と同様に一日がかりです。
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サバ州立鉄道の駅のひとつ。日本なら秘境駅の筆頭に挙げられること間違いなし
バスは予定どおりテノムに着き、そこから乗り込んだ車両が写真のもの。車両の四隅に申し訳程度にベンチがあるものの紛うことなき貨物車両で、乗客は床や乗降口に座り込んで発車を待ちます。するとさも当たり前のように乗降口を全開にしたまま動き出す車両。おかげで冷房も扇風機もない車内に風がふんだんに流れ込み、暑さに悩まされることはありません。
「危険では…」という心配も無用です。テノム~ビューフォートの所要時間は2時間45分ということで、時速20kmにも達しません。川沿いの景観と車内の人間模様、そしてちょっとしたスリルを楽しみながらビューフォートに到着。
ここでタンジュン・アル行きに乗り換えようとしたところ、思わぬ事態に遭遇。なんと乗るはずの便が、時刻表から消えているではありませんか。いや、テノムの窓口に貼られた時刻表には確かに載っていましたし、州立鉄道のウェブサイトにも載っています。「そんな大事なことを…」と思っても後の祭り。
幸いにしてコタ・キナバルに向かうバスがあったため、あわてて乗り込み事なきを得ました。ちなみにビューフォートに着いたのは16時前でしたが、その日のタンジュン・アル行き終電は午前11時1分(!)。いくら利用者が少ないとはいえ、運行している以上はなんとかならないものかと思った次第です。
とまあトラブルに遭遇することがありつつも、拡張される新幹線のあおりを受けて風前の灯となった日本と比べ、現役で活躍する長距離列車が多く残されているアジアの鉄道。鉄道好きならずとも、一度利用してみることをお勧めします。