パトリックの脅威を食い止めようと、3バックの中央を務める那須大亮に加えて左の槙野智章までが真ん中に引き寄せられる。必然的に、槙野が埋めるべきサイドにスペースが生じる。
すでに右サイドのスペースへ走り込んでいたDF米倉恒貴へ、パトリックが余裕をもってパスを通す。慌てて那須がマークに走るものの、レッズの対応はすべて後手を踏み続ける。
そして、クロスを放った米倉の照準はゴール中央へ走り込んでいたパトリックとMF倉田秋ではなく、逆サイドをトップスピードで攻め上がってきたDF藤春廣輝へ定められていた。
DF森脇良太が藤春を止めようと間合いを詰めるも、時すでに遅し。利き足とは逆の右足から放たれたボレーは、GK西川周作が懸命に伸ばした左手の先を通過。ゴール右隅へと吸い込まれていった。
「そこから先の展開は、その後の（味方の）状況だと思いますけど」
苦笑いしながら謙遜した遠藤だったが、ガンバが仕掛けた乾坤一擲のカウンターを一気に加速させたプレーは、東口を起点として15秒間で5本が紡がれたパスのなかでひときわ異彩を放った。
ダイレクトで正確無比にパトリックの足元へ縦パスを通したテクニック。ぬか喜びから守備への切り替えが遅れた、レッズの選手たちの心理状態を見抜いた洞察力。何よりも、遠藤自身が瞬く間に「絶望」を「チャンス」へと書き換えていた。
「ああいうワンタッチでのプレーが入ると、やはりチャンスが広がりますよね。前半の間延びしていない段階からそれができれば、さらに得点チャンスが増えたのかなと」
史上2チーム目の三冠を達成した昨シーズンから一転して、今シーズンは徹底的にマークされる立場となった。同時進行で開催されたACLで日本勢のなかで唯一、準決勝まで勝ち残ったことで過密スケジュールとも戦い続けた。
ファーストステージは4位。ACLが佳境を迎えた10月には、試合後に嘔吐したパトリックをはじめとして体調不良者が続出。ナビスコカップ決勝で鹿島アントラーズに惨敗し、1週間後の11月7日に行われたサンフレッチェ広島とのセカンドステージ天王山でも完敗を喫した。
迎えたセカンドステージ最終節。FC東京がサガン鳥栖とまさかの引き分けに終わったことで年間総合勝ち点3位に並び、得失点差で上回ってようやくチャンピオンシップ出場権を得た。
【MF遠藤保仁が稀代のプレーメーカーと呼ばれるゆえん 続く】
