会場となったのは、都営新宿線の曙橋駅近くにある「タシデレ」。おそらく都内唯一のチベット料理レストランです。ちなみに店名のタシデレとは、現地であいさつに使われる言葉。店内に入るとあらかたの席は埋まっていましたが、ツアーで一緒だった湊大作さんの隣が空いていたのでお邪魔しました。
乾杯を終えると、ツアーをコーディネートする丹羽隆志さんの写真が壁に映し出され、そこに彼の解説が加わります。2005年に始まった当初はラサ近郊を巡るものでしたが、やがてクルマでの移動も織り交ぜてカトマンズを目指すように。ただ、それも初回はチベットからネパールに入国できるかどうか。その確証が得られぬままの出発となったため、カトマンズとラサ双方の航空券を確保したとのエピソードも明かされます。
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コーディネーターを務めた丹羽隆志さんの言葉に、参加者が耳を傾ける
僕が参加したツアーは、満を持して催された全行程を自転車で走り通すものでした。旅行会社の添乗員、嶋田京一さんは心配の種が尽きなかったようで、最難関とされた峠を全員が上りきったときには、感動と安心のあまり涙をこぼしていました。
その後は大地震があってネパール側の道が通行不能になったり、あるいはチベットの治安対策が強化されてテント泊ができなくなったりが重なって、以後同様のツアーは実現していません。当時50歳だった僕は先々の体力維持に自信はなく、これを逃したら…という切羽詰まった思いもあり決断したわけですが、振り返れば全行程を走破するツアーそのものが空前絶後となりました(再開の努力は続けていくようです)。
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麦をひいた粉とヤクバターで作るツァンパは、チベット人の主食
当日は今後の参加を検討する人もいたため、経験者が語る場も設けられました。僕もそのひとりということで、ラサに到着した当初は高山病に悩まされ、食欲不振に陥ったことを証言。ただし旅行会社の対策は万全で、血中酸素濃度をキチンと測定して体調管理に心掛けたおかげで、体が慣れるに従い平常に戻ったことを付け加え、抱くであろう不安を多少なりとも和らげます。
モモやツァンパ、バター茶といった同店ならではの料理を味わううちに、楽しかった会もお開きに。「介護した親を見送って、ようやく手にした自分の時間。たまたま巡りあった海外を目指す自転車旅が、今の生きがいとなっている」という女性の言葉が印象的でした。