12月30日に迫る、第93回全国高校サッカー選手権大会。開幕戦を飾るのは、今夏の全国高校総体で優勝、2年連続16回目の出場となる東福岡高等学校(福岡)と、7年ぶり2回目出場の東京都立三鷹高等学校(東京B)。
優勝候補筆頭の東福岡と当たることとなった三鷹高校の選手たちはいま、どう感じているのか。個の力では劣ると思われるチームにどう戦っていくのか。さらに、高校生として受験を控え、どういったプレッシャーを感じながらメンタルをコントロールしているのか。日々、何を意識して生活しているのか。
試合のカギを握る選手たちへインタビューを実施した。今回は三鷹のキャプテン巽健(たつみまさる)選手のインタビューだ。選手権予選では1回戦から準決勝までの4試合で4試合連続ゴールという圧倒的な決定力を発揮した。三鷹高校サッカー部の佐々木監督や周りの選手の信頼も厚い、三鷹高校の核となる存在だ。
【OBコメント】
「1年生の頃から試合に出ていて、上級生と一緒に経験を積み、色々な経験をしてきたと思います。自分たちの代ではその経験を活かしキャプテンに就任し、チームにとって欠かせない存在となっています。」
【監督コメント】
「巽は1年生のころから試合に出ている選手で、場慣れしています。また、選手権の予選4試合で4得点。決勝戦はマークされてしまって点はとれなかったのですが、得点力は目を見張るものがあります。シュートのタイミングが良い。ドリブルも前を見てドリブルしているから、スペースを使うのが上手なのです。」
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◆最後の「三鷹高校」で結果を出したい
---:1年生から試合に出ていたという点を監督やOBは挙げられていましたが、その事実は自分の中でどう生きていますか。
巽健選手(以下敬称略):1年生から出ていたのは確かに僕だけでした。練習もずっと(先輩世代に)混ざってやってきたという経験から得るものが色々ありました。1つ上の先輩も2つ上の先輩もすごく練習への意識が高くて、「自分たちでしっかりやっていこう」みたいな気持ちがずっとありました。ですが、そういった密度の高い練習をしていても、大会では結局勝ちきれなかったり、ということもあって…。
自分たちも最初の方の大会では勝つことができず、改めて、先輩たちよりももっとしっかりとした練習をしなくてはいけない。同じような結果になってしまうから引き締めていこう、という話合いをみんなでしてきました。僕らの代に変わった時、コーチや先輩に、僕らの代はひとつ上の先輩に比べて劣っているから、勝ちたいなら本当に真剣にやらなくては駄目だよ、とも言われていたので。
自分たちの代が最後の「三鷹高校」なので、結果を残していきたいし、全員3年生でやっていきたい、という気持ちがあります。
---:三鷹高校は都立でもあり、私立に比べて練習時間の制限、環境面での違いもあると思いますが、どうカバーしてきたのでしょうか。
巽:環境面に関しては、他の学校がどういう環境でサッカーをしているかよく知らないので、なにかが足りない、というのは思ったことはないです。スポーツ推薦で入ってきた人が中心となって構成されているチームには技術では勝てないので、気持ちの部分で負けずに、下手なりに一生懸命戦えば、守備の部分ではなんとかなるとは思っています。
---:技術を気持ちなどでカバーしていく、と。
巽:そうですね、選手権の予選などはほとんどそうでした。
◆選手権は本当に勝ちたい
---:気持ちの部分を高めていくには、どういった過程があったのでしょうか。
巽:わからないです(笑)。自然とみんなで上がっていったんだと思います。でも、一個上の先輩から「お前らの代はこのままだと3つの大会(高校サッカーは1年に大きな大会が3つある)一回戦で負けるぞ」って言われて…。
実際に最初の2つは1回戦で負けてしまったんで、それが本当に悔しくて。だからこそ、「選手権は本当に勝ちたい」って本気で思って頑張ってこれたんだと思います。
---:巽選手は推薦で大学が決まっているそうですが、学業の点ではなにか意識してきたことはありますか。
巽:僕はたまたま成績がとれて、指定校推薦をいただくことができそうなので今は楽なのですけれども、他の選手はいまは辛く厳しい時だと思います。
---:全国出場を勝ち取るまで、選手権を勝ち抜いていく上で支えになってきたものはありましたか。
巽:やっぱり大会にもずっと応援に来てくださった保護者の方々や、ベンチに入れなかった選手たちの存在です。勝たなきゃ申し訳ない、っていうのは少し違うんですけれども、そういった感情がありました。
◆自主性が鍛えられた背景にあるもの
---:三鷹高校サッカー部が他校に誇れる部分はどこだと思いますか。
巽:他校のことはあまりよくわからないのですが、うちは生活態度なども自分たちで厳しく律してやってきました。先生たちがいなくても自分たちで質の高い練習ができるようにやってきたつもりです。
---:自主性を意識していく、三鷹のスタイルはどこから生まれてきたのですか。
巽:先生が結構任せて下さる部分があるので、自分たちで考えてやっていく能力が次第に身についてきたのかもしれません。ただ、佐々木先生じゃなかったら全国まで勝ち抜いてこれなかったと思います。
いい意味でみんな、佐々木先生を恐れていないので、先生になにか言われてもそれが違うと思ったら自分たちで決めたことを徹底できるし、先生に言われたことが正しいと思ったら積極的に受け入れる、といった本当にいい意味で自立してやっていくことができたことが、色々とプラスになっていったのだと思います。
---:自分たちが中心になって考えて動いていくスタイルをとると、巽選手の負担が大きくなったりはしないのですか。
巽:いや、特には(笑)。みんな本当にしょっちゅう自分たちで集まって、「どうしていったらいいか、どうしていきたいのか」というところを話し合っていたので、僕の負担というのは特にはありませんでした。
---:そんな佐々木監督に対してのコメントなどはありますか。
巽:これまで通り選手自身で色々考えてやっていくスタイルで選手権もやっていきたいと思っているので、よろしくお願いいたします。
◆東福岡との対戦が決まる瞬間「汗、やばかったです(笑)」
---:優勝候補である東福岡高校と対戦することになってどう感じていますか。
巽:全国に行くからには優勝候補のような強いチームとやりたいと思っていましたし、2回戦とかで当たる組み合わせになっていたとして、その前に1回戦で負けたとしたら当たれないので、それはよかったな、と思っています。
---:田嶋選手が教えてくれたのですが、巽選手が「東福岡、引いてくるわ」と宣言して本当に引いてきたという背景があったそうですが(笑)。
巽:それは、万が一引いてしまった時の保険ですね(笑)。
---:実際に引いた瞬間に感じたことは。
巽:自分が先に引いて、向こうが後からうちとの対戦カードを引いたんです。初戦は勝ちたかったので、もう少し無名というか、そういうところと対戦したかったっていうのは内心あったのですが…(笑)。
「他のところ(東福岡が)引いてくれないかな」と思っていたんですけれども、既に残りの枠が2つの時点で、東福岡の引く番となって、「あぁ、引いてくるな、終わった…。」って。(笑)…案の定でした。汗、やばかったです。でも、もうやるしかないので、やってやるぞ、っていう気持ちですね。
---:私立の強豪校などと対戦するときに、意識はしますか。
巽:意識はしていないですけれど、絶対に相手の方が上手いので、気持ちの部分で負けないように戦ってきたつもりです。そこで戦うしかないので。
---:全国が決まって環境やメンタルに変化はありましたか。
巽:メンタルとかはあまり変わらないと思うのですけれども、環境面では、他の部活がグラウンドを空けてくれたり、市が外の練習場をおさえてくれたりと、応援されているな、という思いを感じることは多々あります。
正直、全国大会まで出られるとは本当に思っていなかったので…。うん、まぁ、でもみんな3年間頑張ってきたと思うので、ご褒美というか、そういったものが頂けたと思っています。
◆東福岡との対戦が決まる瞬間「汗、やばかったです(笑)」
---:巽選手が見る三鷹のサッカー部はどういうチームですか。
巽:みんなが、手を抜かないで、ただただ真剣にサッカーに取り組んでいるチームだと思います。ストロングポイント、正直わからないんですよ(笑)。選手権の予選もたまたまシュートが入って勝ち進んでこれた感じなので。本当はショートカウンターを武器にするチームだとは思うのですが、選手権予選ではあまり出せなかったということもあって…。
西が丘では枠内にいったシュートがすべて入ってしまった感じでした。少し前の練習試合ではみんなシュートが入らなくて先生に怒られていたのに…(笑)。でも、あの舞台で決められたのは本当に不思議です(笑)。
---:チームメイトに対する思いは。
巽:プレーだと、守備陣は本当に頑張ってくれていて、攻撃陣はその分決めていかなきゃならないと思っています。選手権では、前が決めることができて、守備もほとんど点を与えずにやってこれたのは、大きな自信になったと思います。全員で闘えた、という感じです。
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言葉を丁寧に探し出し、慎重に発言する様子に、キャプテンとしての貫禄を感じることができた。「正直、全国大会までくるとは本当に思っていなかった」と心情を明かした三鷹のキャプテン。このままの勢いで、全国大会の階段を上り続けるかもしれない。
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次回は連載最終回、佐々木雅規(ささきまさのり)監督のインタビュー。巽選手に「佐々木監督でなければ全国に行けなかったと思う」と言わしめた佐々木監督の哲学とは。選手権の開幕戦、12月30日まであと2日だ。
《大日方航》
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