いきなりの急坂にひるんでいると道路脇に看板。なんだかいやな予感が。恐る恐る近づくわれわれ。と、そこには「全面通行禁止」の文字。落石などの危険があるとの理由で、ごていねいに自転車や歩行者も通行できないと明記されています。あっさりあきらめて別ルートとなる国道212号を進み、そして大観峰を目指します。
数ある阿蘇のビューポイントでも筆頭に挙げられるだけあって、そこには大勢の観光客が。パッチワークのように見える耕作地の先には涅槃像(ねはんぞう)とも言われる阿蘇五岳が連なり、みぞおちに当たるところからは噴煙が上がっています。茶店のソフトクリームもことのほか美味で、上りのつらさは吹き飛びました。
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観光客でにぎわう大観峰。涅槃像のみぞおちに当たるところから噴煙が上がっている
この先もアップダウンは続き、下りに転じたのは瀬ノ本高原を過ぎてから。下る途中で国道に並行する旧小国街道にそれると、その道沿いは人気温泉地として知られる黒川温泉となり、木々に覆われた細道には湯巡りをする客の姿もありました。
そして、小国地方の総鎮守とされる小国両神社を経てたどり着いた杖立温泉。ここには杖立川の両岸に20ほどの宿が軒を連ねており、豊富な湧出量のおかげで湯煙があちこちから上がり、共同風呂のほか野菜や卵などを高温の蒸気で調理する蒸し場も散在しています。昭和の温泉地、湯治場の面影が、そのまま残っているというわけです。
宿泊した宿は、現地で背戸屋と呼ばれる迷路のような路地を下った先に建つ古びた旅館。部屋には風呂もトイレもありませんが、温泉なら大風呂に限ります。湯は肌に優しく、ケガをした右腕の回復にも役立ったような気が。そして宿から路地をさらに下った川岸には、無料の露天風呂もありました。遮るもののない風呂は入るのに勇気がいりますが、男性なら大丈夫。いや、女性でも平気という人がおりました。
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杖立川の川岸にある無料の露天風呂「元湯」。混浴ゆえ思いがけない出会いも
滞在した2日間で杖立温泉をくまなく巡り歩いたわれわれは、熊本空港までの峠越えも順調にこなし、6日間の自転車旅を終えました。走行距離は286km。杖立温泉での1日はまったく自転車に乗りませんでしたから、この日を除いた平均で57.2kmと短いものでした。が、おかげで高千穂や杖立温泉では観光を楽しむことができましたし、妻からもあまり文句を言われずにすみました。何よりケガを抱えた自分自身にとって、これくらいが適当だったようです。
次なる9月の大型連休は11年後の2026年。そのときにはカレンダーどおりの休みとなる妻も退職しているでしょうから、この恩恵にあずかるのは今回が最後となるはずです。