■プレミアリーグの厳しいハードル
謙虚な姿勢を貫き、不断の努力を積み重ねて短期的な目標をすべて達成した武藤は、自立している選手の象徴となる。一方で、武藤のキャリアパスには中期的な目標としてこんな言葉も綴られていた。
「2年後には海外でプレーしている」
予定よりも早く海外移籍のチャンスが訪れても武藤は決して浮かれることなく、自身が置かれた現在地を確かめながら目の前の試合に挑んでいる。
海外のチームへ移籍する際に必要な就業ビザは、プレミアリーグの場合は特に厳しい。直近2年間の代表戦の75%以上に出場する条件を、武藤はクリアしていない。特例で認められるケースもあるが、一方で移籍したとしても別の国のチームへ期限付き移籍して武者修行を積む可能性のほうが大きい。
実際、チェルシーに席を置いたまま期限付き移籍している選手は30人を超える。3年後のワールドカップ・ロシア大会でプレーする姿から逆算したときに、チェルシー移籍は正解なのか。FC東京でさらに結果を残し続け、新たなチームからのオファーを待つこともまたありではないのか。
揺れ動く心と、名門チェルシーからオファーを受けたことで否が応でも増す周囲からのプレッシャー。それでも武藤は平常心を貫き、FC東京のエースとしての仕事に集中している。
「個人としてはハードワークするところと、前線からの守備や体を張ることを意識したい。その上で試合数を得点数が上回るようになったら、フォワードとして本当に素晴らしい選手になれると思っているので。欲というよりも、とにかく上手くなりたいんです」
言葉通りに、18日に行われたサンフレッチェ広島戦では開始わずか1分に2試合連続となる先制ゴールをゲット。出場6試合で5ゴール。目標とする「1試合1ゴール以上」に確実に近づいている愛弟子へ、フィッカデンティ監督も目を細めずにはいられない。
「この7、8カ月の間に信じられないほど成長している。もしチェルシーに移籍することになっても、彼ならしっかりと適応できる能力を備えている」
熟慮を重ねている最中だからか、武藤はチェルシー移籍に関しては言及しない状態が続いている。しかし、これまでに訪れた2度のターニングポイントでいずれも正しい答えを弾き出してきたように、今回も自らの意志で、将来にとってベストとなる選択を下すはずだ。
《藤江直人》
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