茨城県の低山ハイクのベストシーズンは、空気の澄んでいる冬だと思っている。
夏は虫も多いし、湿度も高い。夏から秋にかけてはスズメバチという危険な虫に出くわす場合がある。クマは出ないが、猪がいる。時折、猪に襲われたというニュースを耳にすることもある。色とりどりの花が咲き乱れる春もいいが、それほど混雑しないにしても、人が多いのはイヤダ。紅葉の時期は確かに景色は良いが、やはり混雑している場合が多い。
それに比べて、冬は寒くはあるが重ね着すれば凌げる程度の寒さ。茨城県は他の関東地方の県に比べると気温が低い面があるが、それでも冬は滅多に雪が降らない。当然、雪山で起こる悲惨な遭難事故もない。
夏のジメジメ感はもちろんなく、落ち葉を踏みしめながらひんやりとした空気の中を歩くのも気持ちがいい。危険な虫もいなければ、危険な獣もいない。人はまばらで歩きやすく、歩いていてもほとんど登山者と会わない場合だってある。山を独り占めしている感覚を味わえる。何より、空気が澄んでいるから眺めが良い。
冬は空気が澄んでいるから、景色がよく見える。この定説を、冬の低山に登っているとまざまざと実感させられる。今回の難台山ハイクでは、冬の低山の醍醐味を存分に味わえた。
■展望も抜群!難台山ハイキング
展望台からの筑波連峰の眺め。そこからひょっこりと頭を覗かせた富士山。屏風岩から日光男体山、天狗岩からは那須岳を臨む。
頂上では筑波山を見ながら、岩に腰掛け温かいスープを啜り、帰り道は太平洋を眺めながら下る。日が落ちるのが早いから、下山後に少しばかり待てば夜景を眺めることだってできてしまう。
山の木々から葉が落ちて、春の新緑や秋の紅葉のような美しさを見ることはできないが、変わりに美しい風景を見せてくれた。
そもそも、筆者がもとより山を楽しんでいた季節は冬であった。山の師匠が夏場は仕事で忙しく、一緒に登る人が他にいなかったというのもあって、山は冬にばかり登っていた。
だから、筆者にとってのハイキングのシーズン=冬という等式が成り立ってしまった。最近では、一年を通して登っているが、それでもやはり冬のハイキングが一番楽しい。
ひっそりと静まり返った山の中を歩き、澄んだ空気の向こう側には、普段は見えない遠くの山々が姿を現す。その山々の姿を見て、ひっそりとこう思うのである。
嗚呼、寒い。何で真冬に山なんぞ登っているのだろうか。確かに景色はキレイだけれども、炬燵で蜜柑を食べながらテレビでも見ているのが日本の冬の伝統ではなかろうか。現代風に言うならば、エアコンの効いた部屋で、ネチネチとネットを眺めている方が余程優雅ではなかろうか。いや、でもそんなことばかりしていたら、きっと堕落してしまうだろう。そう思ったから山に来たのではないか。ならば、せめてこの景色を楽しもうではないか。ほら、目の前にはこんなにも素敵な風景が……。嗚呼、やっぱり寒い!
風景に感動しつつ、寒さに凍える時こそが、冬の低山ハイクを最も楽しんでいるひとときなのである。
《久米成佳》
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