■2018年W杯アジア予選への影響を最小限に
法務委員長の三好豊弁護士とともに会見に臨んだ日本サッカー協会の大仁邦彌会長が発表したのは、日本代表のハビエル・アギーレ監督との契約解除。リーガ・エスパニョーラのサラゴサ監督時代に八百長に関与していたとする告発状がバレンシアの裁判所に受理された事実を、日本サッカー協会独自のルートで確認できたことを解任理由としてあげた大仁会長はこう続けた。
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「私どもとして一番考えなければいけないのは、日本代表に対しての影響です。最大のミッションは2018年のワールドカップ・ロシア大会に出場すること。そのアジア予選が6月から始まる。今回の告発の受理によって捜査が始まり、その後は起訴され、裁判が始まる可能性がある。私どもとしては、アジア予選にできるだけ影響が出ないようにリスクを排除する必要があると考えました」
日本と司法制度が異なるスペインでは、告発状の受理は検察庁の反汚職課による捜査が正式に始まることを意味する。捜査の結果として嫌疑が十分と見なされれば起訴され、アギーレ氏が被疑者となって裁判が始まる。起訴に至らない場合もあるし、裁判で無罪が証明される場合もある。
アギーレ氏自身、昨年末に行った釈明会見では「推定無罪」の原則を声高に訴えていた。
「有罪が証明されるまでは何人たりとも無罪だと思うので、家に引きこもっている必要はない」
■訴訟長期化のリスクも…何物にも代え難い日本代表の未来
八百長に関与した疑いがあることを解任理由としてあげられても、おそらくアギーレ監督は受け入れなかっただろう。それでも解任されれば、不起訴となる、あるいは裁判で無罪が確定したときには名誉棄損で日本サッカー協会を訴えることも十分に考えられる。
これが日本代表チームの「今後」を理由にあげられれば、アギーレ氏も納得せざるを得なくなる。だからこそ告発状が受理されるか否かがポイントになったし、大仁会長も「受理されたことが確認できれば、日本協会としての対応を説明する」と繰り返してきた。
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実際に告発状が受理されたことで、今後は事情聴取のために召喚されて証言を求められるケースも出てくる。裁判になればアギーレ氏が契約している顧問弁護士と対策を練ることにも時間が割かれるだろう。日本とスペインを何度も往復すれば、代表監督としての仕事に影響が出ることはまず避けられない。
日本サッカー協会が告発状の受理を確認したのは2日の深夜。一夜明けた3日午前には大仁会長以下の役員が協議して解任を確認し、午後2時に自宅のあるスペインで休暇中のアギーレ氏へ大仁会長自身が国際電話して同意を取り付けた。受話器の向こう側で、アギーレ氏は「やむを得ない」と語ったという。
■八百長に関与したから(契約を解除する)ということではない
記者会見の席で、大仁会長は「手腕を高く評価していたし、告発が受理されないことを願っていた」とアギーレ氏へ最大級のリスペクトを払いながら、八百長疑惑とは関係がないことを強調している。
「八百長に関与したから(契約を解除する)ということではない。その事実はまだ確認されていないわけですから。そして、アギーレ監督にとってもこの問題は名誉に関わる重要な問題であると思っているので、 アギーレ監督にはそこに全力を尽くしてほしいと私どもとしては考えている」
告発状の受理は不可避との情勢は、早い段階から指摘されていた。起訴されるか否かまで待てばワールドカップ・アジア予選が始まってしまう可能性が大きく、日本代表チームに与えるリスクは倍増する。裁判になれば結審まで数年を要するという見方もある。決断をずるずると先送りにすれば、その分だけ日本代表のイメージはダウンしていく。そうなれば日本協会に協賛する企業も黙ってはいないだろう。
■アギーレ監督解任、唯一無二のタイミングを逃さなかった
告発の段階では日本サッカー協会が被るリスクのほうが大きくなるし、起訴されれば手遅れと言わざるをえない状況に追い込まれる。告発状の受理はアギーレ監督を解任するための、まさに唯一無二というタイミングだったわけだ。
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スペインの裁判所は告発状を受理したか否かを発表しない。1月中旬にはスペインの一般紙『アス』が「受理された」と報じたが、日本代表が連覇のかかったアジアカップに臨んでいたこともあり、大仁会長は「大会中はこの件を封印したい」と明言。アギーレジャパンがベスト8で敗退すると「日本サッカー協会として受理を確認していない」と対応を表明することを保留してきた。
本来ならば記者会見を開くべきアギーレ監督は、休暇のために1月下旬に離日している。騒動がさらに拡大しないために、日本サッカー協会がベストのタイミングで受理の確認を発表したと勘繰ることもできる。いずれにしても、日本代表チームの歩みが停滞することだけは許されない。今後の焦点は後任監督の人選と大仁会長をはじめとする役員の責任の取り方に移ってくる。